4月5日、コンテンツビジネスがテーマのイベント「コンテンツ東京2019(主催:リード エグジビション ジャパン)」が開催された。「バーチャルYouTuberが切り開く、コンテンツビジネスの新たな可能性」と題したトークセッションでは、バーチャルYouTuber(以下、VTuber)界のキープレイヤーである4社から以下の4人が登壇。各社における取り組み紹介や、VTuber業界の現状、今後の展望等について語った。
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画像左から、モデレーターを務めた(株)360Channel 代表取締役社長 中島健登氏、パネラーの、サントリーコミュニケーションズ(株)宣伝部 デジタルグループ燦鳥ノムプロジェクトリーダー 前田真太郎氏、グリー(株) 取締役上級執行役員/Wright Flyer Live Entertainment 代表取締役社長 荒木英士氏、Activ8(株) 代表取締役 大坂武史氏
VTuberの勢いは止まらない、地上波初の連続ドラマもスタート
コンテンツが紙からデジタルへと変化を遂げてきたように、コンテンツやエンタメの中心にいる”タレント”のデジタル化の動きが加速している。そのひとつがVTuberやバーチャルタレントだ。
コンテンツ東京にて(株)スパイスがおこなった、モーションキャプチャシステムの実演。3DCGキャラクターを動かしている
VTuberとは、「Virtual YouTuber(バーチャルユーチューバー)」の略語で、人間のYouTuberのように、動画に出演する3DCG(コンピューターグラフィックス)キャラクターをさす。モーションキャプチャシステムという技術を用いて、人間の動きをキャラクターに反映したり、人間が声を担当したりすることができる。
キズナアイは2つのYouTubeチャンネルを持ち、合計チャンネル登録者は383万人にのぼる(2019年4月時点)
2017年末頃から始まったVTuberの盛り上がりは、2018年に急成長をみせ、今年2月には、VTuberの数が7000を突破した(株式会社ユーザーローカル調べ)。
このVTuber業界の草分け的な存在がActiv8がマネジメントする「キズナアイ」だ。2016年12月に世界でも初期のVTuberとしてデビューして以降、業界を牽引してきた。YouTubeの累計チャンネル登録者ランキングは23位(2019年4月時点)につける人気ぶりで、昨年からアーティスト活動も開始。2018年12月には単独リアルライブを東京・大阪で開催して4000人の観客を沸かせた。他にも、テレビの冠番組を持ち、日本政府観光局の訪日促進アンバサダーに就任するなど、VTuberの域を脱し、人間のタレントのような活動をおこなっている。
他のVTuberたちの活動も活発的だ。今年3月1日(金)には人気VTuber総勢12組によるコンピテーションアルバム「IMAGINATION vol.1」が発売され、欅坂46やEXILEを抑えてiTunes総合1位を獲得。また、4月19日(金) 深夜0時52分からは全キャストをVTuberが務める地上波初の連続ドラマ『四月一日さん家の』(テレビ東京)の放送がスタートする。どちらも史上初の取り組みで、注目が集まっている。
アメリカや中国でもVTuberは活躍中
左:米国発のバーチャルインスタグラマーMiquela Sousa(ミクエラ・ソウザ)右:中国発のバーチャルシンガー洛天衣(ルォ・テンイ)
バーチャルタレントなどの活躍は、日本に限るものではない。
例えば米国では、完全CGの女性インスタグラマー「Miquela Sousa(ミクエラ・ソウザ)」が人気を博している。150万人のフォロワーを持つ彼女は、CHANEL(シャネル)、supreme(シュプリーム)、PRADA(プラダ)など一流ブランドとスポンサー契約を結ぶ他、歌手としても活動。現在、Spotifyなどで楽曲を配信中だ。
また中国では、動画投稿配信サイトbilibili(ビリビリ)において絶大な人気を誇るバーチャルシンガー「洛天衣(ルォ・テンイ)」が2万人規模のライブを開催。海外でもバーチャルタレントがヒートアップしている。
企業におけるVTuber活用事例(「サントリー/燦鳥ノム」)
昨年8月にサントリーコミュニケーションズ(株)からデビューした「燦鳥ノム」(さんとりのむ)は、わずか8カ月で、YouTubeのチャンネル登録者が8万人を突破した。一般のVTuberでも容易ではない「チャンネル登録者8万人超」という成果を、企業系VTuberの燦鳥ノムはどのように実現したのだろうか。
YouTubeのチャンネル登録者8万人超の要因
「燦鳥ノム」は、新技術やカルチャーを活用することを趣旨とした同社のチャレンジプロジェクトから誕生した
燦鳥ノムプロジェクトリーダーの前田氏は、登録者が伸びた最大の要因を「他の企業系VTuberが自社の公式チャンネル内に留まって活動しがちなのに対し、”ノムちゃん”は、VTuber番組や、コンピテーションアルバムに参加するなど、外に出て他のVTuberと活動できたことが、数字につながった」と説明した。
「基本的には声が掛かって外に出るスタイルで、積極的に共演依頼を受け付けている」という。最初にオファーが舞い込んだきっかけは、活動初期に制作した歌ってみた系の動画「ドラマツルギー」がバズったことだった。視聴者はノムちゃんと他のVTuberのコラボを楽しんでいるのだろうと推測する(前田氏)。
企業がVTuberを活用するメリット
企業がVTuberを活用するメリットについて尋ねられた前田氏は、ノムちゃんをある種のオウンドメディアと捉えていると前置きした上で、「TwitterやFacebookを企業の公式アカウントに用いるケースは多いが、最大のプラットフォームであるYouTubeのチャンネルを活用できると、よりリッチな情報発信が可能になる。またSNSと同様、視聴者と定期的にコミュニケーションも図れる」と述べた。
YouTubeチャンネルの広告的側面については、「動画の中で商品情報を詳しく伝えるというより、3DCG化したサントリーの商品を”ノムちゃん”が自然に飲む程度にとどめ、CM色が強くならないよう意識している」と説明した(前田氏)。
なぜ、VTuberが急激に注目されているのか
Activ8代表の大坂氏はバーチャルタレントが急激に盛り上がる要因を、
- 見せたい自分や、ファンが求める姿(外見・声・言語)になれる都合の良さ
- 人間のタレントに起こる体調不良・不祥事・引退等のリスクが極めて低く、コントローラブルな存在
というバーチャルタレントならではの強みにあると分析する。
上記に加え、特に日本のVTuberはアニメキャラクターのような外見をしている場合が多いため、漫画やアニメに次ぐ新しいコンテンツカテゴリーと捉えている企業も増えてきている。「デジタルメディアとの親和性も高いため、盛り上がるのはむしろ当然」と大坂氏は話す。
また、VTuber専用ライブ配信アプリ「REALITY」を提供するWright Flyer Live Entertainmentの荒木氏は「質の高いコンテンツをコンスタントに配信していることも要因の一つ。例えば企業で活用する場合、もうVTuberを制作するだけでは話題にはならない。ハイクオリティだから人気がでている」と述べた。
キーパーソンが考える、VTuberの未来
歌手や俳優、タレントなど活動の幅が広がっているVTuberたち。この先、一体どうなっていくのだろうか。
ジャニーズの参入で、著名人がアバターを持つ動きが加速?
今年2月、ジャニーズ初のバーチャルアイドルがデビューした。所属タレントの2人を、名前を明かした状態でアバター化し、別の名前を与えてオンライン上で活動するものだ。ジャニーズは、2018年にネット上の画像の使用を解禁するまで、肖像権保護の観点から長らくインターネット上での画像や動画の公開を控えてきたが、一転、最先端へ躍り出たかたちとなる。
この動きについて荒木氏は「画期的な出来事。良いことだと思っている」とコメント。さらに「毎晩の配信や、ファンからのコメントを名前とともに読み上げる”距離の近さ”、”双方向性”がファンに受けている。これまでVTuberに興味を持っていなかった新しい層を連れてきている」と分析した。
大坂氏は、米国でも音楽プロデューサーの男性が”ヴァーチャル・セルフ”というアバターを持ち活動している例を挙げ、「タレントは自分が活動した部分しか稼げないが、アバター化することでタレント自身が稼働しなくてもひとり歩きできる」とメリットに言及。今後も著名人がアバターを持つ動きが増えると予想した。
VTuberの活躍は、今後起きる大きな変化のスタート地点
今後、VTuberはもっと一般的になると荒木氏は見通しを立てる。
「全てのSNS上でプロフィールのアイコンとニックネームを自分の本名と顔写真に設定している人は少数派。ほとんどの人が、複数ある自分の人格を、SNSごとに使い分けている」とし、「今後、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)が普及して、皆がそれらのツールを通じて世界を見るような時代がくれば、現在SNSのアイコンとニックネームで表現している人格に、体が必要となる日が訪れる。アバターを持つ人が増えるのは必然」と説明した。
「今存在するVTuberたちは、将来、全世界の数十億人が経験するであろう、アバターを持ち現実世界を生きる最初の例であり、先頭集団になる。そして、今日の7000というVTuberの数は、今後、数万人・数億人に増えるだろう。今はそのスタート地点だと捉えている」(荒木氏)
最後に大坂氏は、「VTuberやバーチャルタレントは”流行しているもの”という印象かもしれないが、コンピレーションアルバムなどを見聴きしてもらえばきっとクオリティの高さが分かるはず。今後さらに良いコンテンツになっていくという期待も込めて、ぜひ一度視聴してほしい」というメッセージでトークセッションを締めくくった。