愛する人と過ごす時間が限られているとしたら、あなたは何をするでしょうか。
限られた時間をいかに過ごすかをテーマにした恋愛映画は数多くありますが、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』は時間のすれ違いという要素を加えており、運命の相手と邂逅する新感覚の恋愛映画です。
原作は、第3回京都本大賞を受賞した七月隆文の同名小説。主演は福士蒼汰と小松菜奈の2人。全編京都で撮影され、風情ある古都でファンタジックな恋愛模様を切なく描いています。
時間が逆に流れる2人の恋
京都の美大に通う大学生・南山高寿(福士蒼汰)は、電車の中で見かけた福寿愛美(小松菜奈)に一目惚れし、勇気を出して声をかけます。「また明日ね」という言葉で別れた2人は翌日、高寿が動物園で模写をしている時に偶然のように再開します。2人の距離はすぐに近くなり、高寿は告白し、交際が始まります。
愛美は、高寿が告白した瞬間、泣き出してしまいます。「自分は涙脆いから」という愛美ですが、実はその涙には理由があったのです。しかし、その時の高寿には、その理由はわかるはずもありません。2人は毎日一緒に過ごし、京都の様々な名所をめぐり、思い出を育みます。しかし、愛美は事あるごとに涙を流すのです。
ある日、高寿は愛美が忘れていった日記を見つけます。なんと、そこには未来のことが綴られていました。愛美はそのことを聞かれ、「予知能力があると言ったらどうする?」と高寿に告げます。
愛美は、実は別の世界線から来た存在で、その世界では時間の流れが逆行しているのだといいます。高寿にとっての明日は、愛美にとっての昨日で、愛美にとっての明日は高寿の昨日なのだと。だから、高寿にとって愛美と初めて出会った日は、愛美にとっての高寿との最後の日なのです。告白された時も、高寿にとっては好きだと告げた最初の日ですが、愛美にとっては好きと言ってもらえた最後の日、だから彼女は事あるごとに涙していたのです。
そして、愛美は、2人は5年周期の月の満ちて欠ける30日間しか一緒にいることができないとも告げます。2人は今20歳、次に会えるのは愛美が15歳で高寿が25歳の時。そんな風に2人は互いに思い合っていながらも、すれ違い続けなければいけない運命なのです。
時間の流れが違うという、SF的な発想で切ない青春のラブストーリーを描いている点が新鮮で、一生すれ違いつづけてしまうにも関わらず、相手を想い続ける2人の愛が胸を打ちます。物語で描かれるのは、2人が20歳の30日間の短い期間なのですが、時を超えて2人が愛し合っているのがわかります。鑑賞中に多少混乱する人もいるかもしれませんが、シンプルに「自分の明日は、相手にとって昨日」で、「お互いが逆方向に年をとっている」と考えればわかりやすいかと思います。物語は、高寿の視点で進行しますが、最後に愛美の視点に入れ替えて魅せてくれるので、その時にこの時間の流れの逆転がいかに切ないことであるかが実感できるはずです。
古都の魅力が満載
三木孝浩監督は露出オーバー気味の光り輝く映像を作ることが多く、今作品でもレンズのピントの合う部分、被写界深度を狭くして、高寿と愛美の2人以外の背景はピンぼけにするなど、映像面でも純粋な2人の世界を作っています。
伏見稲荷大社や三条大橋、鴨川など、京都の名所も随所に登場します。趣のある裏道など、古都の魅力を存分に作品に取り込んでおり、SF的なアイデアを取り入れた恋愛物語を古い町並みで展開したことによるギャップも大きな魅力となっています。
本作を観ると京都観光に行きたくなります。こんな風情ある町で一生に一度の相手に出会ってみたいと思わせる恋愛映画です。
動画配信サービスの「Amazonプライム・ビデオ」では、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』が見放題です(2019年12月18日時点)。
構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部