アシックスが語る、ウェアラブルが切り開くスポーツとライフスタイルの未来

アシックスが語る、ウェアラブルが切り開くスポーツとライフスタイルの未来

2020年2月12日(水)~14日(金)にわたり、「第6回ウェアラブルEXPO ―ウェアラブル開発・活用展―」が開催された。さまざまな企業が出展し、最新のウェアラブル端末に加え、活用ソリューション、AR/VR技術、最新ウェアラブルデバイス開発のための部品・材料などを発表した。数多くの講演が実施され、総合スポーツ用品の製造・販売をおこなっている株式会社アシックスの執行役員・スポーツ工学研究所長の原野健一氏が、ウェアラブルとスポーツ・ライフスタイルの関係や未来について語った。

これまでのウェアラブルに関するアシックスの取り組み

アシックスはスポーツ関連商品で有名だが、革靴や安全靴、子ども・高齢者の靴などを扱う健康快適事業にも取り組んでいる。さまざまな事業の商品開発に携わっているのが、同社のスポーツ工学研究所だ。

同社は「スポーツで培った知的技術により、質の高いライフスタイルを創造する」をビジョンとして活動している。スポーツ工学研究所は「人の動きに着目し、すべてのお客様の可能性を最大限に発揮できるような価値ある製品サービスを提供すること」をミッションとし、製品開発につながる研究や分析に取り組んでいる。

スポーツ工学研究所の分析・開発フロー

スポーツ工学研究所の分析・開発フロー

具体的には、足に関連する10万件以上のデータや動的・静的データなどを活用して人の動きを徹底的に分析し、社会に求められている商品の要求や特性を抽出。その後、コンピューターシミュレーションを使って構造設計・材料設計をおこなっている。さらに人間の応答をもとに検証や評価し、従来の商品や競合他社製品に比べてどのくらい優れているのか、劣っているのかを調べ、仮設設定の修正・検証を繰り返して新しい製品の開発や価値創造に取り組んでいるのだ。

特に注目しているのがランニング市場

ランニング市場

グローバルなランニング市場の動向。年平均成長率も8.4%と成長が大きい

近年、同社が注目しているのが、ランニング市場だ。世界のランニング市場は3.4兆円の規模があると言われており、2010年ほどからランニング人口は右肩上がりで増えている。そこで、原野氏は「一人ひとりのランナーが目標を達成するためにコーチングしてくれるソリューションの提供や、パーソナライズされたランニング体験を実現したい」とこれからのランニングスタイルの考えを述べた。

ランニングウォッチ

ランニングウォッチは毎年2桁に近い成長を遂げており、高機能高価格帯へシフトしている。対してヘルスケアバンドは縮小気味だ

注目しているのが今話題の「ウェアラブル」で、ランニングをする半数の人がデジタル機器を身に付けているというデータがある。ランナーが走るときに持っている持ち物の61%がスマホ、52%がウォッチどなっているのだ。

「スマホを持ってランニングするのは多少億劫に感じるが、時計は自分でも付けて走っている。これからはウォッチのサービスを向上させるのが重要だと考えている。GPS搭載のランニングウォッチは顕著な成長を示しており、今後も成長していくと予測されている。一方、ヘルスケアバンドの市場は縮小傾向にある。時計は将来的には、新たな差別化をする必要があり、お客様のニーズに沿った価値の提供が必須だ」(原野氏)。

ランナー動向

東京マラソンEXPO2018年、東京マラソン財団2014年度イベント参加者アンケート、京都マラソンレポート2015で調査したアンケート結果

顧客のニーズを把握すべく、東京マラソンに参加したランナーにアンケート調査をしたところ、「有料でも知りたい情報」として最もニーズが高かったのが、ランニングフォームであることが判明した。ランナーの約90%が自分のランニングフォームを知りたいという回答をしていた。

理想のフォームなどは、書籍やインターネット、ジムなどからしか適切な情報を得られないのが現状だ。書籍やインターネットなどから簡単に情報を得られるが、なかなか自分ごとにならない上に、一度調べたら終わりという単発の情報になりがち。専門店では詳細な分析評価ができるものの、高価だったり、時間や場所が限定的になり、単発になるという課題がある。

「自分に合ったランニング方法や練習方法を時間や場所に関係なく手軽に知り、継続できることが重要で、ランナーのニーズとして高いことがわかった。しかし実際には、自分のランニングフォームを簡単に知るすべがない」(原野氏)。

同社でも、個人のランニングフォームを知るために、複数の反射マーカーを付けて特殊なカメラで撮影し、床にはセンサーを埋め込んでランナーの特徴やフォームを分析するというサービスがある。しかし、一般の人は利用できない。タブレットの映像を使用した簡便なランニングフォームを提供するサービスも開発したが、特定のショップに行かないと測定できないという課題があり、手軽に利用できるサービスとは言えなかった。

ランニングフォーム分析

同社が保有している反射マーカーとAIを使用したランニングフォーム分析

いつでもどこでも自分の分析ができる、新しいウェアラブルデバイスを開発

ランニングフォームを測定する専用機器

カシオ計算機と共同研究をした、ランニングフォームを測定する専用機器

そこで、カシオ計算機と共同研究でランニングフォームを測定する専用機器を開発。GPSと気圧センサーが搭載されており、全身の動きを代表する体の重心付近(腰のあたり)に製品を装着して数値を測定することで、ランニングフォームの改善が期待できる。対応ウォッチを連動されることにより、さまざまな指標をリアルタイムに確認できるのが魅力だ。

ランニングフォームを測定する専用機器

スマホで詳細なデータの確認ができる

数値はスマホで確認できるようになっており、重心移動や姿勢など、各指標をスコア化して見られる。また、動きの特徴を直感的に理解できるよう、3次元のスティックピクチャーを表示し、コーチと自分の動きを見ることで、どこがどれだけずれているかを視覚的に把握しやすくしたのも特徴だ。

スポーツとライフスタイルの未来

高齢化の推移と将来推計を表したグラフ

高齢化の推移と将来推計を表したグラフ。2020年は65歳以上の高齢者の比率が約30%、70歳以上の人口が約1800人だ。2035年には高齢者の数が33%になり、3人に1人が高齢者という時代がやってくると予測されている

同社は、高齢化問題にも取り組んでいる。平成26年度の日本の男女の平均寿命は82.9歳、健康寿命と呼ばれる健康上の理由で日常生活が制限されるようなことが発生する年齢は72.0歳と言われている。平均寿命と健康寿命の間に10歳の差があり、健康寿命をいかに伸ばすか、健康寿命に到達してしまった人にどのようなサポートをするかが課題となっているのだ。

アシックスが実施している高齢化問題への主な取り組み

アシックスが実施している高齢化問題への主な取り組み

高齢化問題に対して、スポーツ関連企業として何ができるのか。同社は、高齢者に特化した健康体力づくりをおこなう機能訓練型サービス「Tryus(トライアス)」や心身の健康状態の測定、健康寿命の予測、健康増進プランの提供をおこなう体力診断サービスを提供している。最近では2019年11月に高地トレーニングから着想を得た、施設全体の酸素濃度の調節が可能な低酸素トレーニング施設を開設するなど、さまざまな取り組みをおこなっており、今後も展開を強化していくつもりだという。

ASICS Sports Complex TOKYO Ba

都市型低酸素環境下トレーニング施設「ASICS Sports Complex TOKYO Bay」では、標高2000~4000mの酸素濃度の調整が可能。トレーニングルームだけでなく、プール、巨大スクリーンのアルスタジオなどが設置してある

スポーツとライフタイルの未来について、原野氏は「快適なライフスタイルを実現するためには、ウェアラブルテクノロジーが重要。ウェアラブルテクノロジーの進化こそがスポーツのライフスタイルの変容を担っていると言っても過言ではないだろう。人と人、物と物がオンサイドでつながり、新たな価値を創出する世界を作るために研究を進めていきたい」と今後の抱負を語った。

構成・文:吉成 早紀
編集:アプリオ編集部