Amazonスマホ「Fire Phone」の野望を読み解く6つの特徴

Amazon ジェフ・ベゾス

「最も熱心な顧客のために、より良いスマートフォンを作れるだろうか? Amazonプライム会員のために、より良いスマートフォンを作れるだろうか?」

Amazonは18日、かねてから噂されていた新型スマートフォンを正式に発表した。名称は「Fire Phone」。米AT&Tの独占で7月25日、199ドルから販売される。

Fire Phoneの開発・販売に、Amazonジェフ・ベゾスCEOの野心が大きく絡んでいることは明らかだ。ベゾスCEOによる冒頭の発言どおり、Kindle端末の発売以降つづくAmazon帝国へのユーザー囲い込みが、それだ。

そのことが伝わってくる6個の特徴を概観してみよう。

1. Dynamic Perspective

Dynamic Perspectiveは、3D効果を用いたユーザーインターフェース(UI)。このUIは、ユーザーの顔と目を端末前面の画角120°の4カメラで認識し、視線はどうなっているのか、どのように端末を持っているのかをリアルタイム検出することで、片手で端末を操作することができるシステムを採用している。たとえば、手前に傾ければオートスクロールするし、横にさっと傾ければナビゲーションが表示されるなど、多様な操作方法を実現。アプリやゲームでの活用が見込まれる。

Fire Phone

また、端末を見る角度によって、画面内のオブジェクトの見え方が変わる。地図アプリを見てみると、立体的に表示されたビルを見る角度を滑らかに変更できる。画面の中に、箱庭があるような印象だ。

このDynamic Perspectiveは、デバイス自体の機能に限って見たときに、Fire Phoneをその他の端末と差別化する大きなポイントとなる。つまり、後述の各種機能はAmazonサービスとの連結がアピールポイントとなるのに対して、Dynamic Perspectiveはそれ自体に価値を見出すユーザー、開発者が出てくるだろうということだ。なお、Dynamic Perspectiveは開発者向けSDKが用意されている。

2. Firefly

Amazonサービスとの連結という意味では、ベゾスCEOが最も売り込みたいのは、このFirefly機能だろう。この機能のために専用ボタンが端末左側面に配置されていることからも明白だ。

Fire Phone

Firefly機能は、従来からAmazonアプリが提供していた機能を強化して端末に組み込んだもの。Fireflyボタンを押すことで、カメラが物を認識したり、映画やテレビ番組、音楽を認識したりすることができる。その結果、Amazonの各種サービスとユーザーとをシームレスに繋げることができる。

  • 製品やバーコードを撮影すると、Amazon.com上の商品情報が表示される。
  • テレビを撮影すると、X-Ray機能によって映画などに関する情報(俳優やあらすじ、関連コンテンツ)を表示し、ウォッチリストへの追加やダウンロードが可能。
  • 音楽を認識させると、アーティスト情報を表示し、楽曲の購入や提携ラジオアプリとの連動、コンサートチケットの予約すら可能。
  • OCR機能で、印刷物上の電話番号やメールアドレス、URLなどを高い精度で認識し、各種機能を立ち上げることができる。

Fire Phone

Fireflyも、開発者向けSDKが用意される。

3. Mayday

Maydayは、無料で365日24時間対応するテクニカル・カスタマーサービス。予約は不要で、15秒以内の応答を目指すとしている。サポートはビデオ通話でおこなわれるが、オペレーター側からユーザーを見ることはできない(音声は双方向、ビデオは一方通行)。

Fire Phone

ビデオ通話のモーダルウィンドウは、サポートを受けたい機能の画面に表示される。サポートを受けるユーザーとして嬉しいのは、オペレーターがユーザー端末の画面上に直接手書きで指示を書き込める点だろう。

4. 199ドルの戦略価格

iPhone発売当初と同様に、米通信キャリアAT&Tによる独占取り扱いとなったFire Phoneだが、2年縛りありの32GBモデルの販売価格は199ドルと、他ブランド端末より安価となっている(Galaxy S 5は16GBモデルで199.99ドル、iPhone 5s 32GBモデルは299.99ドル)。

なお、Fire Phoneには64GBモデルも用意されており、価格は299ドルとなる。

5. Amazonプライムとの融合

Fire Phone

端末価格設定で攻めに出たAmazonだが、さらにFire Phone購入者に対して1年間のAmazonプライム特典を付与する。

米国のAmazonプライム会員料金は、動画・音楽ストリーミングサービスの強制加入もあって年間99ドルと、決して低額ではない。しかし、Fire Phone購入者には1年間のAmazonプライムが付与されるため、初年度だけで考えるとFire Phoneの実質価格は100ドルとなる。

また、プライム会員がFire Phoneを購入した場合でも、追加料金なしで会員資格を1年間延長する。既にプライム会員なら、実質的に100ドルで購入することができるということになる。

6. Amazon Cloud Drive

DropboxやGoogle Drive、One Drive、Boxなどクラウドストレージ業界は競争を激化させているが、Amazonは、Fire Phone向けにクラウドストレージ「Amazon Cloud Drive」を提供する。

Fire Phoneで撮影した写真や動画、Amazonで購入したオンラインコンテンツなら、すべて容量無制限かつ無料で保存可能。写真を保存する際の解像度については不明だ。

Amazon帝国建設は加速されるのか

ここまで紹介した機能以外にも、Fire Phoneにはいくつか面白い機能や特徴がある。カルーセルタイプのウィジェット、絡みにくいプレミアムヘッドセット、視聴習慣を学習して動画コンテンツを高速表示するASAP機能などだ。

一応、端末スペックも簡単に紹介すると、端末のサイズは、139.2mm × 66.5mm × 8.9mmの160グラムとなっており、クアッドコアSnapdragon 800 2.2GHzのプロセッサと2GBのRAMを搭載する。1280 × 720ピクセルの4.7インチ HD LCDディスプレイ(315ppi)。 バッテリー容量は2,400mAhとなっている。

しかし、結局のところ、このFire Phoneの売りは端末のスペックではなく、Amazonサービスとの密接な連携にこそある。それ以外の機能や特徴は、本質的なものではないだろう。それは、さんざん喧伝されてきた3D機能「Dynamic Perspective」も例外ではない。「Dynamic Perspective」は、Fire Phoneを数多くのスマートフォンの中で際立たせる"色物"機能だが、どこまで活用されるのかは未知数だ。

モバイルユーザーを自社サービスに囲い込もうとするベゾスCEOの帝国建設計画が、Fire Phoneによって加速されることになるのか否か。通信関連業界だけでなく、流通やコンテンツ業界などを広範に巻き込む話題であるだけに、世界中から注目されるところだ。