なぜ「ドコモ、iPhone導入」報道が話題になり続けるのか?

2013-09-05 8:41
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ドコモ iPhone

2013年9月6日、ドコモがiPhoneの取り扱いを開始すると日経・朝日・NHKが報じた。ドコモは否定していない。

ドコモ・iPhone報道の乱発

「ドコモ、iPhone導入へ…」

2011年頃からマスコミのWeb媒体を中心に喧伝され始めたのが、国内最大手キャリアのNTTドコモがApple製スマートフォンiPhoneの取り扱いを開始するのか否かという話題だ。

いわゆる飛ばし記事やデマ、内容のないコラムなど、この2年余りの間に掲載されたドコモ・iPhone関連記事は数えきれないほど存在する。

大手メディアの記事をいくつか挙げてみる。

この手の話題に敏感な読者の中には、各自の立場や価値観の違いをあるにせよ、驚き・喜び・不満・失望などの感情を経て、もはやドコモ・iPhone情報を「嘘であること、中身がないこと」という色眼鏡を通してしか受け止められない人も少なくないのではないだろうか。

そこで、以下の視点から「ドコモiPhone導入」報道が話題になり続ける理由を簡単に考えてみたい。

  1. 情報の送り手であるメディア
  2. 情報源
  3. 情報の受け手である読者

1. 情報の送り手であるメディア:ドコモ・iPhone情報を扱えば読者に受ける

ドコモ・iPhone情報が大好きな読者

なぜWebメディアはドコモ・iPhone関連記事を掲載するのか。

最大の理由は、ドコモとiPhoneが読者の大きな関心事項だからだ。それは、「ドコモ」と「iPhone」という2大キーワードが結びついたとき、一定の読者層は何かを言及したくなるということでもある。今まで、ドコモ・iPhone情報に何かしらコメントした経験がある人は、少なくとも2,3回はドコモ・iPhone関連記事を読んだことがあるはずだ。

PV=収益

メディアは読み手がいないと成り立たないので、「読者の大きな関心事項だから」という理由は当然すぎる前提事項だろう。そこで、「読者の関心事項だから」という理由付けを、もう少しだけ具体化してみる。

まず、Webメディア側の短期的な視点からすると、読者の関心に応える記事を掲載すれば、ページビュー(PV)を獲得することができる。PV至上主義のメディアがあるとすれば、誤報だろうが捏造だろうが、読者に記事タイトルをクリックさせることができれば、PV獲得という短期的な目的は達成されるのだ。

次に、長期的な視点からすると、「ドコモ」と「iPhone」というキーワードを埋め込んだ記事を数多く掲載しておけば、Googleやyahooなどの検索エンジンの検索結果で自サイトを上位表示させることにつながりうる。ここで詳細は説明しないが、もし仮に近い将来にドコモがiPhoneを発売した場合、多数の検索ユーザーが自サイトを訪問する可能性が高くなるわけだ。これも、結局はPV獲得のための施策だ。

PVを獲得することは、通常はWebメディアの収益に直結する。広告収益やアフィリエイト収入など収益化の方法は複数あるが、PV数がメディアの収益を大きく左右することは間違いない。そして、Webメディア(少なくとも商業メディア)にとってPVを稼ぐことの大きな目的は記事掲載に対する金銭的な収入を得ることにある。

したがって、Webメディアがドコモ・iPhone関連記事を掲載する主な動機は「収益を増加させること」にある。

ただ、収益が、読者のための記事作りの結果に過ぎない側面もあることも書き添えておきたい。

2. 情報源:マスコミの特殊事情

もちろん、ほとんどのWebメディアは事実を捏造してまでドコモ・iPhone関連記事を掲載しているわけではない。

記者による一次取材を行うことができる大手マスコミ以外のWebメディアの記事に目を通すと、必ずと言ってよいほど情報元に関する記載があるはずだ。つまり、各Webメディアは何らかの事実(例:日経新聞が報じているという事実)に基いてニュースを報じているということだ。

読者として注意を払うべきは、どのような事実に基いているのかという点。日経ソースなのか、産経ソースなのか、Twitterソースなのか。そして、それら情報元の信頼性はどれほどなのか。通常は、マスコミの情報は一定の信頼性があるものとみなされており、それゆえ多くのWebメディアはマスコミが報じたという事実をもって、ニュースを掲載する。

そこで問題となるのは、日経・産経のようなマスコミによるニュースそのものの信頼性についてだ。

日経ビジネスオンラインが2011年12月1日に掲載した記事「ドコモ、来年夏にiPhone参入」や、産経ニュースが2013年4月5日に掲載した記事「ドコモ、今夏にもiPhone投入へ 劣勢挽回狙う」などを題材に、ニュースの信頼性について考えてみたい。

社内政治に利用される日経

確証がなければ断定しない

まず日経ビジネスの記事についてだが、この記事は一連のドコモ・iPhone情報の先駆けとも言えるもの。結果的には「飛ばし記事」だったが、なぜ誤報となってしまったのか。

「ドコモ、来年夏にiPhone参入」
NTTドコモは米アップルの人気スマートフォン「iPhone」とタブレット端末「iPad」の次世代機を日本国内で販売することで、アップルと基本合意した。
(中略)
複数の関係者によると、11月中旬にドコモの山田隆持社長と辻村清行副社長らが訪米し、アップル本社でティム・クックCEO(最高経営責任者)らと会談。次世代iPhoneと次世代iPadの販売で基本合意し、販売数量などの条件について本格的な交渉を開始した。
「ドコモ、来年夏にiPhone参入」(日経ビジネスオンライン)

注目しておきたいのは、記事タイトルの「ドコモ、来年夏にiPhone参入」と一文目の「基本合意した」という断定調の書き方だ。大手メディアが情報を断定調で報じる場合、ほぼ確実に相応の根拠に基いている。この記事の場合の相応の根拠がどこにあったのかは確定できないが、少なくとも「複数の関係者」から情報を入手したことは間違いない。有力で信頼性のある情報源であったことは想像に難くない。

ドコモの社内政治に利用された?

しかし、「飛ばし」てしまった。理由は複数存在するだろうが、1つ大きな理由として挙げられるのが、日経のドコモないしNTTグループ全体の社内政治への利用だ。最近、川崎重工が日経を社内政治に利用したのではないかという疑惑について、週刊文春が切り込んだ記事を紹介する。

日経は4月22日付朝刊で「川重・三井造船?統合交渉」との“スクープ”をした。だが、両社とも全面否定。その不自然さから、この報道は「日経ファースト」ではないかとの憶測を呼んでいた。企業が優先的に日経に内部情報を漏洩(リーク)して都合よく書かせ、表向きは全面否定して株価上昇などに繋げるメソッドだ。
「川崎重工を襲ったクーデターと日経新聞の深い闇」(週刊文春WEB)

これは日経ビジネスではなく日経新聞のケースだが、日本最大の経済紙であるがゆえに取材先の社内政治に利用されることもあることは従来から指摘されてきた。

NTTドコモ社内でも意見の不一致はあるだろうし、NTTグループ全体の中にもパワーバランスの変化もある。NTT外からは見通せない何らかの力学が働いた結果として、「複数の関係者」によって日経へのリークが行われたと見るのが妥当だろう。

このような事例は他にもある。

「来年以降のiPhone導入を考えざるを得ない」(ドコモ幹部)との声が上がっている。
「ドコモ、契約数5年ぶり純減 iPhone導入検討も」(日経新聞)

この日経新聞記事も同様のパターンだと思われる。

結局のところ、現在または将来における企業経営の意思決定に関する確度の高いリーク情報を信頼できる情報源から入手したという事実は真実であったとしても、そのリーク情報が実現するかどうかは別問題だ。それゆえ、リーク情報に基づくニュースが誤報となるのは、構造的に避けようがない。

推測を散りばめた産経記事

打開策として、ドコモは今夏にもiPhoneを投入するとみられる。
(中略)
ドコモは劣勢挽回にはiPhone投入が不可欠と判断したようだ。
「ドコモ、今夏にもiPhone投入へ 劣勢挽回狙う」(産経ニュース)

この産経ニュース記事の場合、タイトルを「iPhone投入へ」として「iPhone投入」と断定していないことと、本文で「みられる」「ようだ」のような推測を交えた文が散りばめられていることが特徴的だ。

このように断定しない書き方をする記事は、前述の日経記事とは質的に異なるものだ。日経記事の場合、「関係者」や「ドコモ幹部」などの情報源があることが明示されていたが、産経ニュース記事の場合は情報源が明示されていない上に意図的にぼかした伝え方をしている。

そこから読み取れるのは、この記事が取材に基づくスクープ記事ではなく、手持ちのデータとドコモ加藤社長の「(販売台数の)2~3割なら扱ってもいい」と発言した事実に基づいた推測記事に過ぎない可能性があるということだ。タイトルや本文から判断すると、いわゆる「釣り記事」だとも考えられる。たしかに、読者の関心に応えた記事ではあるが、PV稼ぎに走った手法はマスメディアとしての見識を問われても致し方ないだろう。

新聞記事における「検討」の裏側

ドコモはiPhone導入の検討を続けている。
(中略)
ドコモは他社への流出防止策として今後は扱う機種を人気のある端末に絞ったうえで、機能や品質向上に努める。同時にiPhoneの導入も検討しているが「あくまで条件次第」(加藤薫社長)としている。
「ドコモ、顧客流出続く iPhone導入検討」(日経新聞)

最近では、記者会見などで記者が質問をしている様子をネット中継で見聞きする機会が増えた。そこで、「なぜ、この記者は答えようのないような質問をするのだろうか?」と疑問を抱いたことはないだろうか。

ドコモ社長に「今後、iPhoneを取り扱うことはあるのか」と質問する光景を想像してみてほしい。ドコモ社長が誠実であろうとすればするほど、取り扱う可能性を否定しない玉虫色の回答になってしまうはず。企業戦略上、たとえ1%であってもiPhoneを取り扱う可能性を排除できないからだ。

そのようなコメントを取ることができれば、あとは記事タイトルと本文中で「iPhone導入検討」と書くことができる。取り扱う可能性を否定しない以上、「検討している」と書いても嘘にはならないためだ。事実を報道するという観点からは実質的な価値があるとは思えないが、それでも読者の関心を呼び起こすことができるため、このような記事になるのだろう。

3. 情報の受け手である読者:情報を渇望し、消費することを楽しんでいる

では、情報の受け手として、読者はどのようにメディアの発信する情報に接すればよいのだろうか。

「PV稼ぎ目的の釣り記事を載せるな」「また嘘か」といった指摘をしたくなる記事を掲載させないために有効な対策は、読者がそのような記事に一切反応しないことだ。基本的に、メディアは読者の関心が無い話題を報じることはない。

しかし、実際問題として大勢の読者が記事に一切反応しないという対応を取ることは不可能だろう。

そこで、ここでは筆者が採用しているポジティブな対応策を提案したい。

それは、「事実と憶測を区別した上で、ひとりの読者として誤報も含めて楽しむ」という姿勢を持つということだ。「楽しむ」と書くと語弊があるかもしれないが、つまるところ受け取った情報にどのような価値を見出すのかによって、誤報ですら意味のある情報に昇華できるのではないか、と考えているのだ。

考えてみると、IT・ガジェット系ニュース全般のリーク情報や憶測記事のこれほどまでの多さは、従来、日本では芸能分野以外には見られない現象だったのではないか。そして、真実性に疑問が残る情報であっても、それはそれとして読者は楽しんで情報のシャワーを浴びているように見受けられる。

これと類似する例として、海外サッカー選手の移籍情報の虚実入り乱れた「お祭り」とも例えられるような状態を挙げておきたい。年中、誰がどこに移籍するか、途切れる間もなく情報が飛び交い、ファンはそれを楽しんでいる。そこには喜びも落胆も怒りも存在するのだが、それらをひっくるめて楽しんで情報を消費している。楽しめるのはなぜかと言うと、サッカーに強い関心を抱き、サッカー関連情報を渇望しているからだ。

そして、読者が楽しめるような関心事があれば、読者に情報を提供しつづけることがメディアの本質なのだ。

その意味では、今年5月16日の日経記事『「本命iPhone」ドコモが布石』は、非常に読者を楽しませたのではないだろうか。ソーシャルメディア上の反応を観察していると、風物詩として楽しむような諦観した読者が多いように見受けられた。

なお、「だが裏にはiPhone導入への布石という意味合いもありそうだ」などと理由付けが浅く論理が飛躍していた当該記事は、現在では日経新聞のWebサイト上から削除されていて読むことはできない。

薪(読者)があるから火にくべる人(メディア)がいる。薪が燃えているのなら、そこに空気を送って燃え上がらせる人(情報源)もいる。だからこそ、「ドコモがiPhoneを導入」報道は話題になり続けるのだろう。