ゾンビと生者の切ない純愛、異形の愛が詰まった映画『ティム・バートンのコーブス・ブライド』 Amazonプライム・ビデオで配信中

気弱な青年と政略結婚の道具にされる女性と死体の花嫁が織りなす、可笑しくもせつない愛の物語

愛する者の幸せを願うのが本当の愛。

まさかゾンビにそんなことを教えられるとは思いませんでした。ティム・バートン監督によるストップモーションアニメーション映画『ティム・バートンのコープス・ブライド』は、ゾンビが出てくるゴシック・ホラーの体裁でありながら、切ない純愛を描いています。気弱な青年と政略結婚の道具にされる女性と死体の花嫁が織りなす、可笑しくもせつない愛の物語です。

ティム・バートン監督の作品は、常に社会からつまはじきにされた異形の者たちへの愛情がこもっていますが、本作もまさにそうした者たちへの愛がひしひしと感じられます。

愛する人のために、ゾンビに何ができるか

舞台は19世紀、成金のヴァン・ドート夫妻の1人息子・ヴィクター(ジョニー・デップ)は、自分に自信がなくいつもおどおどしています。彼は両親の言いなりで、没落貴族の一人娘・ヴィクトリア(エミリー・ワトソン)と会ったこともないのに結婚させられることになります。

しかし、ヴィクターとヴィクトリアはお互いを一目見て気に入り、結婚に前向きになります。お互い家の都合で運命を決められてしまうという、似たような境遇であるうえに、ピアノという共通の趣味もあり、2人には愛が芽生えます。

しかし、ドジなヴィクターは結婚式当日、段取り通りに儀式ができずミスを連発。怒った牧師に式の延期を申し渡され、ヴィクターは暗い森の中で1人練習に励みます。しかし、彼の愛の誓いの言葉を聞いていた死体の花嫁・エミリー(ヘレナ・ボナム=カーター)がそれを自分への愛の誓いだと誤解してしまい、ヴィクターは地下の死者の世界へと連れ去られてしまいます。

死者の世界では、ゾンビや骸骨たちが飲んで騒いで楽しく暮らしています。なかなか魅力的な世界だなと思うヴィクターですが、それでもヴィクトリアのことが忘れられません。一方で、結婚詐欺に遭って殺されたエミリーの境遇にも同情し、一度は死者の世界から逃げ出そうとするも、次第に心を通わせていくようになり、ついにはエミリーとの結婚を決めるのです。

しかし、生者と死者は結婚してはいけない決まり。結婚するにはヴィクターは死なねばなりません。エミリーは、結婚したいがために愛するものを殺して良いのか自問自答します。そしてヴィクターへの愛のために、ある決断をするのです。

愛する者のために何をするべきか、ゾンビのエミリーが最後に下す決断は、とても美しく、涙なしには観られないでしょう。これはゾンビが生者に献身的な愛とは何かを教える映画なのです。

異形のものへの愛情あふれる物語

ティム・バートン監督は、一貫して社会からはじき出されるような異形の者を愛情深く描き続けてきた人です。

登場人物がとにかくみんなキモ可愛いデザインで、ほっこりします。死体の面々も気持ち悪さはほとんど感じさせないのが、ティム・バートンのキャラクターの素敵なところ。骨だけになってしまったヴィクターの愛犬も、骨だけしか残っていらず表情もないのに、ちゃんと犬の可愛らしさが感じられるんです。

反対に生者は一般的な人間よりもグロテスクなデザインにしていて、生者と死者にほとんど違いがないように見えるのも本作の大きな特徴ですね。

ティム・バートン監督にとっては、生者も死者もみんな等しく愛しいものなのでしょう。そんな彼の心情が全編に渡って感じられる素敵な作品です。

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