どうすれば夫婦仲を良好に保てるのか。それは人類にとって永遠のテーマと言えるかもしれません。実際、その形はカップルごとに千差万別。元々、生まれも育ちも違う他人同士が一つの家庭を築くのですから、むしろ上手くいかなくて当たり前なのかもしれません。
しかし、いくら上手くいかないといっても、殺し合いにまで発展するケースはごく稀でしょう。名優ベネディクト・カンバーバッチとオリビア・コールマン主演の映画『ローズ家〜崖っぷちの夫婦〜』は、険悪な熟年カップルが「死闘」とも呼べる泥沼の争いへと発展する様をコミカルに描く作品です。
本作は、1989年にも映画化された小説『ローズ家の戦争』の再映画化作品です。かつての作品から大幅にアレンジを施し、ほぼオリジナルといってもいい内容。主人公夫婦をイギリス人に設定変更して舞台となるアメリカとイギリスの文化的な差異も巧みに取り込んだ、大人の上質コメディに仕上がっています。
嵐の日に明暗分けたイギリス人夫婦
ロンドンに暮らす建築家のテオ(ベネディクト・カンバーバッチ)は、自分の才能を認めない上司にうんざりして、この地を離れようと考えていました。そんな時に出会ったのが、シェフのアイヴィ(オリビア・コールマン)。一目で意気投合した2人は結婚し、カリフォルニアへ移住することを決めます。
それから数年。双子を授かり幸せな家庭生活をおくっていたテオとアイヴィ。テオは再起をかけてデザインを手掛けたミュージアムが完成し、アイヴィは自身のレストランをマイペースに運営するなど、夫婦仲も円満でした。しかしある夜、ミュージアムにトラブルが。対照的にアイヴィの店は同じ日に大繁盛し、著名な料理評論家に絶賛されたことで、たちまち人気店となっていきます。夫婦の運命は明暗を分けることになるのです。
出会った頃の仲睦まじい様子を除けば、この夫婦は始終互いをののしり合っています。それが本気にも見えるし、ブラックジョークにも取れるのが本作の巧みなところ。ジョークであればまだやり直せると思えますが、本気だとしたら修復は不可能かもしれない。そうハラハラしているうちに喧嘩はエスカレートしていきます。
カンバーバッチとコールマンの絶妙な掛け合い
本作の見どころは何といっても、2人の名優、ベネディクト・カンバーバッチとオリビア・コールマンの芝居です。この映画の魅力は、彼らの素晴らしさに尽きると言っても過言ではありません。
自信過剰な建築家のテオを演じるカンバーバッチはどん底でもがき苦しむ情けない夫を、共感を込めて演じています。いつまでも失敗を引きずり続ける未練がましさがありつつも、どこか憎めない。皮肉屋でありながら、妻の成功を祝福したいのにプライドが邪魔してしまう……そんな複雑な夫像を軽快に体現しています。
一方のアイヴィを演じるオリビア・コールマンもさすがのパフォーマンス。いつでも前向きで明るい彼女ですが、仕事の大成功でやや浮かれ気味になり、家庭を放っておきすぎたかもしれません。子供たちに厳しい言葉を投げかけられてしまうなど、こちらも完璧な人ではありません。コールマンの演技は、愛らしさと鼻持ちならない感じのバランスが絶妙で、どちらの言い分もわかる気がするし、どちらにも悪い部分があるのだと妙に納得させられてしまいます。
それは、この名優2人の芝居による絶妙な匙加減が大きいでしょう。やりすぎれば観客は引いてしまうし、おとなしすぎてもいけない。カンバーバッチとコールマンの見事なケミストリーが、壊れそうでなかなか壊れない夫婦のギリギリの関係性を見事に捉えています。
『ミート・ザ・ペアレンツ』などで知られる大人のコメディの名手、ジェイ・ローチ監督の手腕も冴えわたる、人間の可笑しさを愛おしく感じさせる素敵なコメディです。甘いだけじゃない、辛いだけでもない、色々な味わいが楽しめる物語を求める人にはうってつけの一作と言えるでしょう。
『ローズ家』を見る(ディズニープラスで配信中)
絵に描いたような理想のカップル、アイヴィとテオは、順風満帆な人生を送っているように見えた。輝かしいキャリア、愛に満ちた結婚生活、優秀な子供たち。だが、その裏側では家庭内戦争が始まろうとしていた。テオのキャリアが急降下する中、アイヴィは野心を燃やし、幸せな夫婦に秘められた競争心と不満が爆発する。ウォーレン・アドラー原作の小説をもとにした1989年の名作「ローズ家の戦争」のリメイク版。
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