超一流ダンサーと振付師が彩る、1人の女性の波乱に満ちた人生『ポリーナ、私を踊る』

超一流ダンサーと振付師が彩る、1人の女性の波乱に満ちた人生『ポリーナ、私を踊る』

自分は何者なのか。それは誰もが思春期に持つ疑問です。

フランスの漫画バンド・デシネを原作に持つ映画『ポリーナ、私を踊る』は、ロシアで生まれた1人の女性がバレエダンスを通じて、自我を獲得していく物語。ダンスによって己を表現する人が、本当の自分を見つけるためにロシアからフランス、そしてベルギーへと渡る流転の旅を描いています。

監督はヴァレリー・ミュラーと、コンテンポラリー・ダンスの世界的振付師アンジュラン・プレルジョカージュが共同で務めています。出演者もダンス経験者を多く揃え、本格的なバレエやコンテンポラリー・ダンスを多数披露し、悩み、葛藤しながら多くの出会いを経て成長してゆく主人公を情感豊かに見つめた美しい人生讃歌です。

超一流ダンサーによる本格的なダンスシーン

ロシアの貧しい家庭に生まれたポリーナは4歳でバレエをはじめ、ロシアの名門ボリショイ・バレエを目指します。親の期待と自らの情熱、そして恩師のボジンスキーの熱意に応え、懸命に努力するポリーナは、金銭問題に悩みながらも、ボリショイ・バレエ団に合格を果たします。

古典バレエを中心に習ってきたポリーナは、フランス人ダンサー、アドリアンとの出会いによってコンテンポラリー・ダンスの魅力に目覚めます。ポリーナは、自らの可能性を探求するため、約束されたボリショイ・バレエでの成功を捨て、アドリアンと共にフランスへ旅立ちます。

彼女がそこで出会ったのは振付師のリリア。これまで培ってきた古典バレエとはまったく異なるダンスに戸惑いながらも、懸命に食らいついていくポリーナですが、気持ちが空回り怪我を負ってしまい、舞台の役からも外されてしまいます。

失意のポリーナはフランスからベルギーに移り、BARでバイトしながらなんとか食いつなぐ日々をおくるのですが、そこで即興ダンスを教えているカールと出会い、新たなインスピレーションを得ます。ポリーナは振付師兼ダンサーとして新しい一歩を刻むために、カールと共にモンペリエ・フェスティバルに挑戦することを決めるのです。

主人公のポリーナを演じるのは、これが映画初出演のアナスタシア・シェフツォワ。10歳でロシアのバレエアカデミーに入学し、サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場で活躍する本格的なバレエダンサーです。

ベルギーでポリーナと運命の出会いを果たすカールには、パリ・オペラ座で最高位のエトワールを務めたジェレミー・ベランガールを起用。ジェレミーは、アニメ映画『フェリシーと夢のトウシューズ』でも振付を担当しています。フランスの振付師・リリアは、大女優のジュリエット・ビノシュが演じていますが、彼女もダンサーとして舞台に立ったことがあり、出演者の多くがダンス経験者。そのため、ダンスシーンはどれも本格的で、古典バレエとコンテンポラリー・ダンスを組み合わせた見事な創作ダンスが劇中で披露されます。

女性の自己実現と解放を描いた青春映画

本作は、ダンスを通じて1人の女性の自己実現と解放を描いています。原作よりも、女性の生き方を描く姿勢は強調されており、ジュリエット・ビノシュの演じたリリアは、原作では男性キャラクターでしたが、主人公のロールモデルになる人物を配置するために女性にしたそうです。

また、主人公は最終的に古典バレエからコンテンポラリー・ダンスの世界に向かいますが、彼女の創作ダンスには古典バレエのテクニックがふんだんに取り入れられているのも特徴的です。古典が古く、コンテンポラリー・ダンスが自由で新しいというありきたりな対比になっておらず、古典という基本をしっかりと知っているから新しいものを生み出せるという点を描いており、ポリーナのダンスにはあらゆる表現に通じる普遍性があると言って良いでしょう。

1人の若い女性の自分探しの旅を、ダンスを通して見つめた本作、ダンス映画としてだけでなく、青春映画も秀逸な作品です。手持ちカメラを多用したリアルで詩情豊かな映像も魅力的で、多くの見所を持った作品です。

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構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部