アニメ『村井の恋』が描く異色ラブコメディ、ディズニープラスで配信中

「推し」という概念が一般化して久しい昨今ですが、そんな推しへの愛を描くマンガやアニメも今や珍しくありません。世間一般でも二次元のキャラクターを愛でる行為を隠さない人も出てきています。

ディズニープラスで独占先行配信中のアニメ『村井の恋』は、そんな二次元の推しと三次元の男の子との間で揺れ動く女性を描いたラブコメディです。乙女ゲームのキャラクターに本気の愛を注ぎ込む24歳の高校教師・田中と、そんな田中を真剣に愛する男子高校生・村井の一直線かつ破天荒な恋模様をシュールでサイケデリックな映像と抱腹絶倒のネタ満載で描いています。

高校教師の田中は、自分の受け持つ優秀な男子生徒・村井を職員室に呼び出します。成績優秀な彼は最近どこか様子がおかしいのですが、呼び出した要件は進路希望調査票について。村井は何を思ったのか、第一希望に「田中先生と結婚する」とだけ書いて提出しており、田中は頭を悩ませていたのです。

話を聞いてみると、村井はどうやら本気で田中に恋している様子。しかし、田中の方は乙女ゲームのキャラクター「春夏秋冬(ヒトトセ)」に本気で恋をしています。生徒と教師が恋愛関係になるわけにはいかないとか、そういう社会的建前よりも、田中にとってはヒトトセの方が大事だと描かれているのが、本作の特徴です。

しかし、村井は諦めません。髪の長い男はタイプじゃないと言われた彼は翌日、髪を短く金髪に染めてきたのです。そして、その姿は田中の推しであるヒトトセにそっくりだったことで、彼女は不覚にもときめいてしまい、さらには村井をヒトトセと呼んでしまう失態を犯してしまいます。

突然、推しのキャラクターが三次元化して目の前に現れたことで、田中は妄想が止まらなくなってしまいます。そして、村井の方は積極果敢なアプローチを続け、ヒトトセがどんなキャラクターなのかを突き止めることに成功します。

ある日、同人即売会でヒトトセのコスプレをするよう頼まれた村井は、偶然にも田中と居合わせてしまうなど、ハプニング連続の2人の恋模様。果たして、教師と生徒という関係を超えて村井の恋は成就するのか、田中は村井に二次元キャラを投影することなく、1人の人間として接することができるのか、周囲の人間も巻き込んだ奇想天外な恋愛模様が展開していくのです。

進路希望にいきなり「先生と結婚したい」と書くような、頭のネジが飛んだ村井ですが、その気持ちは本物で、その一途な姿勢に胸打たれることもしばしば。大真面目な故に変な行動を取ってしまう彼は見ているうちに、こちらもだんだんと愛おしくなってきてしまうのです。

田中の方も、推しに似ているということを越えて、人として接することの大切さをかみしめながら、徐々にそんな村井のことを考えるようになっていくのです。推しそっくりな生徒を、一人の人として見ることができるのか、二次元に本気になる人ならではの葛藤をコミカルに描いている点が、現代の視聴者には共感ポイントが高いところでしょう。

本作のアニメーション制作を担当したのは、老舗スタジオのJ.C.STAFF。本作はあえて、あまり絵を動かさずに演出するスタイルを採用していますが、これは同社がこれまで手掛けた『極主夫道』や『Back Street Girls －ゴクドルズ－』などと共通しています。

動かさない分、映像に実写の写真をはめ込んだり、様々なタイプの絵柄を変化させてみたりとシュールでサイケデリックなスタイルを標榜しており、その独特の映像センスにも注目です。

そして、絵を動かさない分、感情表現は声優の力量に大きく左右されます。田中役は『戦姫絶唱シンフォギア』や『けいおん！』など、数々の代表作を持つ日笠陽子さん。原作ファンはどう再現しているか気になるであろう第一話冒頭のセリフ「っまーーーーーーじでええ加減にしろーーい」なども、芸達者な彼女ならではの味のある表現で魅せてくれます。ダウナー系なのかと思いきや、推しのことになると突然テンションが上がるそのふり幅ある芝居は、田中を抜群に体現しています。

登場人物全員、どこかネジが飛んでいますが、それはみんな好きなものに対して一生懸命だから。何かに打ち込んでいる人は、はたから見て滑稽に見える瞬間があるけど、ふとした瞬間に素敵に見えるもの。『村井の恋』はそんな滑稽さと素敵さがつるべ打ちのように交互に襲い掛かってくる作品なのです。