人間同士の関係は複雑なもので、近づきすぎても離れすぎても駄目な時がありますよね。
小松奈々、門脇麦、成田凌の3人が共演で話題となったオリジナル映画『さよならくちびる』は、まさにそんな人間関係の複雑さを描いた作品です。
インディーズ音楽界で名の知れた女性デュオとそのローディー兼マネージャーの男性の3人が、最後の解散ツアーで全国のライブハウスをめぐる中で、自分たちの関係を見つめなおすという物語。微妙なバランス感覚の上に成り立つ3人の関係と解散が近づく切なさの中で、三角関係に揺れる様を描いた秀作です。
片方向の想いでつながる三角関係
ハルとレオの2人で活動するデュオ、ハルレオは全国7都市をめぐる解散ツアーに出ることになりました。ローディー兼マネージャーであるシマの車に乗り込む時からすでに険悪なムードが流れ、人間関係が上手くいっていないことがうかがえます。
このデュオは元々、ハルがレオに声をかけたことから始まりました。音楽の知識ゼロだったレオは、ハルの熱心さと優しさに触れて2人には信頼関係が生まれていきました。後にシマが2人の活動をサポートすることになり、インディーズの音楽業界で知られた存在となっていきます。
しかし、作詞作曲をすべて手掛けるハルばかりが注目されることになり、レオは次第に自分の存在意義に疑問を持ち始めます。そういう小さなことが積み重なり、3人の間にはいつしか深い亀裂ができていたのです。
ツアーが始まってすぐにレオは別行動を取り出し、最初のライブに遅刻してきます。波乱の幕開けとなった3人の解散ツアーですが、3人はこれまでの日々を振り返りながら、ツアーをこなしていきます。
次第に、シマがハルを好きで、レオはシマを振り向かせようとしていること、さらにハルはレオのことが好きで、同性愛であることを家族にも隠してきたことが明らかになります。
それぞれの片方向の想いによって3人はつながっており、少しでも距離感を間違えれば崩れてしまいそうなほどに脆い関係。
3人は互いに認め合う部分を持ち、嫉妬しているところもあり、恋心も芽生えていますが、3人を結び付けているのは音楽活動です。解散したら、赤の他人となってしまいます。近づきたくても近づけない関係に疲れていながらも、それでも離れてしまうと、人生の大事なものを失ったような気になってしまう。ラストライブに向けて、さまざまな思いが交錯します。
秦基博とあいみょんが楽曲を提供
本作はミュージシャンを題材にした作品ですので、当然音楽が重要な役割を果たしています。本作の楽曲を制作したのは、秦基博とあいみょんの2人。秦は映画のタイトルにもなった「さよならくちびる」を担当、あいみょんは「誰にだって訳がある」「たちまち嵐」の2曲を提供。3曲とも劇中で、小松奈々と門脇麦によって歌われています。
どの楽曲もハルとレオの心情を絶妙に表現していて、映画の中でも効果的に使われています。「それでもまた君に、心が叫ぶの、離れたくないよと」や「あふれそうな言葉を、慌ててタバコに火をつけ塞いだ」など、作中のハルとレオの心情を絶妙に表しています。2人は実際によくタバコを吸うのですが、確かにその時、ある種の気まずさを誤魔化しているように見えるのです。
痛みもあるけど、優しさもある、珠玉の音楽ロードムービーです。この3人の強い絆は、観た人に深い感動を残すでしょう。
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