映画『アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル』、世界を震撼させたフィギュアスケート界の大事件のお粗末な真実とは

映画『アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル』、世界を震撼させたフィギュアスケート界の大事件のお粗末な真実とは

1990年代、女子フィギュアスケートで活躍したトーニャ・ハーディング。伊藤みどり選手に次いで女子選手でトリプルアクセルを成功させ、アメリカ女子フィギュアスケート界を牽引する存在として期待されていました。

そんな彼女が競技の外でも注目されることになってしまった事件が「ナンシー・ケリガン襲撃事件」です。映画『アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル』は、その襲撃事件がなぜ起きたのかを実録タッチで綴った作品です。

トーニャの少女時代に受けた虐待に近い激しいしつけと厳しい特訓、高校を退学しスケートだけに打ち込まされた青春時代に、夫からの暴力、育ちの悪さゆえの素行不良な彼女を冷遇するフィギュアスケート界、彼女の周囲にはびこる社会へのルサンチマンなど、あのような事件が起きた原因を様々な角度からあぶり出しています。

天才スケーターは劣悪な環境で育った

オレゴン州ポートランドに住むトーニャ・ハーディングがスケートを始めたのは5歳の時。その頃から才能の片鱗を見せ始め、母は厳しい訓練をトーニャに課すようになりました。トーニャの母ラヴォナは、口汚く厳しい性格で、トーニャが試合で負けると暴力を振るうこともありました。

成長し、スケーターとして頭角を現したトーニャは1991年の全米フィギュアスケート選手権で、アメリカの女子選手として初めてトリプルアクセルを成功させ注目されます。私生活ではジェフと知り合い結婚。公私ともに充実した日々を送るかに見えましたが、ジェフは度々トーニャを殴り、その派手な言動のためにフィギュアスケート協会から冷遇され、正当に評価してもらえない日々が続きます。

1992年のアルベールビル五輪では満足な結果を残せず、彼女の五輪への挑戦は終わったかに見えましたが、冬季五輪のレギュレーション変更により、2年後にリレハンメル五輪が開催されることが決まると、トーニャは是が非でも出場権を勝ち取ろうと闘志を燃やします。

しかし、トーニャに宛先不明の殺害予告が届くとメンタルを崩し、競技でも満足な結果を残せなくなります。そこで夫のジェフはトーニャのライバル、ナンシー・ケリガンにも脅迫状を送りつければ平等だと言い出し、友人のショーンに相談し、裏社会の人間を使って脅迫状送付を実行してしまいます。しかも、そこに行き違いが発生して、雇った連中がナンシー・ケリガン本人を襲撃してしまうのです。

さらに、ショーンが至るところでこの件を吹聴しており、捜査はあっさりとジェフとトーニャにまで伸びてきて、全米が大騒ぎになります。ショーンは劣等感の塊で、自分がこの騒ぎを起こし、世の中を操っている気分に高揚してしまってまともな話ができる状態でなくなってしまいます。

ナンシー・ケリガンとトーニャはそんな大騒動の中、揃ってリレハンメル五輪の舞台に立つことになります。ライバル対決として世界中が注目する多大なプレッシャーの中、トーニャはリングに立つことになるのです。

世間を震撼させた事件がなぜ起きたのか。その裏にあったのはお粗末な行き違いや劣等感でした。ジェフの計画は穴だらけで、友人のショーンはプライドだけは高く、能力の低い男でした。低学歴、低所得の家庭の出身であるトーニャやジェフたちは蔑まれている存在です。そんな劣等感や卑小な心が、この事件を奇妙な方向に歪ませてしまったと言えるでしょう。

オレゴン州ポートランドは、全米一の住みやすい都市として紹介されることもありますが、そんな華やかな街の裏の顔が本作からは見えてきます。

マーゴット・ロビーの魂の演技

本作でトーニャ・ハーディングを演じたのは、『スーサイド・スクワッド』でハーレイ・クインを演じて鮮烈な印象を残したマーゴット・ロビー。彼女はアイスホッケーの経験はあったそうですが、フィギュアは未経験。そのため4カ月間みっちりと特訓し撮影に臨んだそうです。プロのフィギュアスケーターとCGも駆使していますが、彼女自身の滑りも本格的な仕上がりです。

彼女は本作の主演を務めるだけでなく、プロデューサーとしても名を連ねており、さらにはアカデミー主演女優賞にもノミネート。彼女のキャリアを代表する1本となりました。歯に衣着せぬ発言や事件のせいで隠れてしまったトーニャのリアルな人間像に迫る熱演を見せています。

本作は、スキャンダルに堕ちた女王としてではなく、等身大の人間としてトーニャ・ハーディングを描き出した珠玉の人間ドラマです。彼女の半生を通してアメリカの闇も垣間見える、痛烈な批判精神に満ちた作品と言えるでしょう。

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構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部