これは本当に現実だろうか。筆者は問題の映像を視聴したとき大きな衝撃を受けた。
2016年9月の3連休、目を疑うような状況がお台場のレインボーブリッジ入口で発生した。「ポケモンGO」において貴重かつ強力なポケモンである「ラプラス」が付近に出現し、それを捕獲するために数百人のポケモントレーナーたちが歩行者通行止めの道路になだれ込んだのだ。
お台場ドライブしてたら、車道にめっちゃ人入ってきて何かと思ったらラプラスいた、、1分しないうちに人やばくなって警察出動してた (笑) pic.twitter.com/aB64tUCURa
— ゆきな (@yukxx617) 2016年9月18日
ラプラスがお台場レインボーブリッジに出現したことでポケモントレーナーが歩道のない道路上へなだれ込み、水上警察まで出動する大騒動に。 pic.twitter.com/5xnDXsTp87
— わかめ (@KU_WAKAME) 2016年9月18日
ラプラス警察に止められる pic.twitter.com/kGT2EwJ3R8
— ハマち (@magurotti0808) 2016年9月18日
この"事件"はFNNなどでも報道された。
3連休の東京・お台場に突如出現した謎の大集団。ルール無視の行動に、警察も出動する事態となった。
道路の1車線分を丸々占領した群衆に、立ち去るよう促す警察官。
この影響で、道路は大渋滞。
交差点の真ん中が、たくさんの人で埋め尽くされている。
そして、停車している車の間を、人や自転車が走り回っていた。
「レアポケモン」求め、お台場大混乱 ルール無視に警察も出動(FNN)
追記(2016年9月21日):警視庁がゲーム運営会社に改善を要請したと報じられています(ポケモンGO 警視庁改善要請 - NHK 首都圏 NEWS WEB)。
違法行為へと導かれるポケモントレーナー
まず大前提として理解しておきたいのは、彼らの行為が道路交通法という行政法規に違反しているという事実だ。「ルール」と言ってもその内容は広範。法的な強制力のないマナーも「ルール」の一種だし、罰則による強制力を伴う道交法のような法令も「ルール」のひとつだ。テレビ報道では穏やかに「ルール無視」と表現されていたが、群衆と化したポケモントレーナーはルールの中でも厳し目の「法律」を犯してしまっていたのだ。具体的には道路交通法の第6条4項(警察官等の交通規制)と第8条1項(通行の禁止等)の違反しているため、2万円以下の罰金又は科料に処せられる恐れがある(第121条1項)。
また、問題が発生した場所を知っていれば、彼らの行為が尋常ではないことが分かるだろう。あそこはレインボーブリッジの一般道部分と高速道路部分につながる道路で首都高の出口になっており、歩行者の進入が禁止されている。そういう場所だ。一般常識があれば、フラフラっと入り込もうと思えるような道路ではない。
首都高の出口となっている2車線(交差点付近は3車線)の道路にトレーナーが多数侵入
レインボーブリッジ入口交差点側から道路を見ると「首都高出口 歩行者・自転車は入れません」の横断幕が掲げられていることが分かる
これをマナーの問題だ、と主張するのは容易い。しかし、マナーを自主的に守らせるのは難しい。さらに言えば、本件はマナーレベルで対処できる段階を超え、現実として違法行為の助長につながってしまっている。レインボーブリッジを渡ってお台場側に出てきた車の運転手の立場で考えると、こんなに恐ろしい状況はない。高速出口であることからスピードを出して走行する車両も少なくない。
これまでも様々な理由で歩行者通行止めの道路に迷い込む人はいたが、今回ほど多数のプレイヤーの進入を招いてしまっているのは異常な状況だ。
しかし、彼らが一般常識がなく危険感覚が麻痺した人間ばかりだとも思えない。群集心理は、ふつうの人々を違法で危険な行為に導いてしまうことがあるからだ。ポケモンGOで現代版『ハーメルンの笛吹き男』を目の当たりにしたと感じた人も多いのではないか。
それゆえ問題の根は深い。
ゲームシステムの問題? プレイヤーのマナーの問題?
ポケモンGOの前身となった位置情報ゲーム「Ingress」は、プレイヤーの申告に基づいて設置されたポータルに近寄る必要があるゲームだ。そしてポータルはプレイヤーの申請によって設置される以上、一般論としてはプレイヤーが徒歩で近づけるような場所に設置されることになる。
他方、ポケモンGOでは、Ingressのポータルをポケストップに流用しているものの、野生のポケモンが出現する場所はポケストップ周辺に限定されない。つまり、プレイヤーが事実上もしくはルール上は近づけないような場所であっても野生ポケモンが出現するかもしれないため、プレイヤーをそういった場所に誘導する力が働くゲーム設計になっているのだ。
たしかに、チートツールの存在によってポケモン出現位置がかなり正確に分かるため、そこにプレイヤーが殺到することになっているのは事実だろう。しかし、そもそもルールを侵さなければ捕獲できないような場所にポケモンを出現させるべきではないとも考えられる。
ゲームシステムが悪いのか。それともプレイヤーに責めを帰するべきなのか。
答えは簡単には出ない。バランスの問題だからだ。たとえば包丁(人に危害を加える状況を生み出すことがある製品)で人を刺し殺す事件があったとして、その原因は包丁を使えるという現実のシステムにあるのか、それとも包丁を扱う人間一般の問題なのか。個別具体的に判断していく必要がある。
現時点では、問題はプレイヤーのマナーにあるとして、土地・施設の管理者に若干のコントロール権が渡されていることで微妙なバランシングがなされている状況だと言える。日本全国どこに行っても「原則許容・例外禁止」だということだ。位置情報ゲームだけを規制する法規もない。
8月に実施された広島平和記念公園内におけるポケストップとジムの削除は記憶に新しい。野生ポケモンも出現しないように設定された。公園施設の管理者である広島市がゲーム運営元のナイアンティック社に要請した結果だ。
先日も不忍池の寛永寺弁天堂境内でプレイ禁止となったばかり。寛永寺という宗教法人の私有地である以上、「ポケモンNO」と明示している権利者の意向に反して境内で遊べば、境内にいること自体が不法侵入として罰せられかねない。ここでもいずれはポケストップが削除され、野生ポケモンも出現しなくなる対応が取られるのかもしれない。
ポケGO「ミニリュウの巣」不忍池、度重なるマナー違反でスマホゲーム遊戯全面禁止に - ねとらぼ
今のところは、こういった事例のように、”勝手に遊ぶ場所にされた”側の依頼によってナイアンティック側が対応する仕組みが採られている。逆に言えば、現状では基本的にはどこでも好きなときに自由に遊べる状態になっているわけだ。しかし、残念ながら、そういったゲームデザインが現実社会で摩擦を生んでしまっている。
ゲーム運営側もプレイヤー側も、お台場ラプラスのような事件が現実に発生している事態を重く受け止めなければならない。そもそも違法行為は論外として、仮に違法行為が助長される恐れがある地点で野生ポケモンが出現しないように設定されれば(それが現実的に可能なのかどうかは脇に置いておくとして)、広範囲に渡ってポケモンGOのプレイに支障が出てきかねない。
たとえば今回、レアポケモンが出現した場所には東京港の港湾区域が含まれている。東京港は東京都管理の区域だ。もしも東京都が管理する場所で包括的にポケモンGOが禁止されるようなことになれば、都下でポケモンGOを満足に遊ぶことすらできなくなる恐れがある。そして規制が他の道府県にも波及したら……と考えるのは杞憂だろうか。
そう考えさせられてしまうほど、レインボーブリッジ入口の映像はショッキングなものだった。世田谷公園や上野公園・不忍池にポケモントレーナーが千人単位で集まる光景に目を慣らされてしまった筆者でも「さすがにこれはまずい」と強い不安感を覚えた。そして、ポケモンGOを遊んでいない人々にあの光景がどう捉えられているのか、想像に難くない。
ポケモンGOに関する議論では、これまで外部からの規制に反対する声が大きかった。しかし、現実に発生している危険を放置したまま、ポケモンGOはサービスを継続できるのか。できるとしても、果たしてそれでよいのか。お台場ラプラス事件は議論の潮目が変わるキッカケになるのかもしれない。