強烈な個性を放つキャラクターにキツい言葉を合わせた「Mrジェイムス」(作者:カンノマサヒロさん)は、ノートの落書きから生み出されたスタンプです。この独特なスタンプには、友達同士の距離感を近づけてほしいという願いが込められています。
Mrジェイムスは学生時代の落書きだった
—スタンプを制作したきっかけを教えてください。
自宅の部屋の片付けをしていたときに、たまたま学生時代のノートが出てきたんですよ。そのノートをめくってみたら、暇なときに描いていたMrジェイムスの原型となる落書きを見つけたんです。記憶では、中国の神話に登場するらしい「刑天」という頭のない怪物を描いたものだったと思います。胴に顔があって手足があるんですけど、そのときうっかり手を描き忘れてしまい、胴と足だけになってしまって。それが何か面白くて、一時期たくさん描いていたんです。その落書きの1つが、ひょこり出てきたというわけです。
それで2014年4月上旬頃に、「なんか、こんなのが出てきたんだけど」ってFacebookに投稿してみたら、友人たちから反応があって。その後、一部の友人から「あの落書き、LINEスタンプにしてみたらどう?」という意見が出てきました。
それ以前にも、クリエイターズマーケット開始が発表されたときに友人から、「お前、イラストを描いたりしてるんだからスタンプ作ってみたら?」とは言われていました。
—どのようなイラストを描いてきたんですか?
イラストというよりは、デジタルコラージュですね。小さい頃から、父親の影響でシュールレアリスムが好きで、自分もそういうものを作りたいなと思っていたんです。Mrジェイムスのシュールさにも影響しているかもしれませんね。
学生時代は、美術とは関係のない勉強をしていたんですけど、趣味のレベルで絵を描いていました。大学卒業後、グラフィックデザインの仕事をするようになって、せっかくだから個人でもモノを作ってみようかなと白黒のコラージュを作り始めました。その後、学生時代の友人のすすめで、下北沢にあるギャラリーのコンテストに応募したら、グランプリをいただけたんですよ。それで1週間個展を開くことになり、急遽いろいろとコラージュを用意しました。
クリエイターズマーケット発表当初に友人から提案されたのは、そのデジタルコラージュのスタンプ化だったんです。でも、それだとどうしていいのか分からないので、スタンプにしようとは思いませんでした。あまり緻密すぎるものはスタンプには向いてないんじゃないかな、と感じました。
その後、ノートの落書きをFacebookに投稿したら意外と反響があって、面白そうだし、落書きだったらスタンプに向いていそうだからやってみようかなと思ったんです。
友達との距離が近づけば、すごく楽しい
—独特の口調が特徴のスタンプですが、どんなコンセプトがあるんですか?
そうですね。仲のよい友達同士だと、お互いを小馬鹿にし合って笑うようなことがあるじゃないですか。それで、友達とLINEで会話をするときに、できたら楽しそうなリアクションを言葉として書き出してみました。全部で200個くらいになりました。
実際に文字にすると、よほど仲のよい友達相手でなければ送れない言葉ってありますよね。たとえば、「そんなもん知らねーよ」とか「お前帰れよ」とか。でも、そういうキツい言葉でも、スタンプのキャラクターのせいにして送れると面白いな、と思ったんです。少し仲がよいくらいの相手に対して、文字としては送れないような突っ込んだメッセージをスタンプとして送ることで、お互いの心の距離がちょっとでも近づいたら、それってすごく楽しいじゃないですか。実際、僕自身もそんなに仲がよいわけではない友達と、お互いに小馬鹿にするようなスタンプを送り合ったら、距離が近づいた気がしましたし。だから、コンセプトは「人間関係の距離を近づける」ということになるのかな。
—200個の言葉を考え出すのに要した期間はどれくらいですか?
思いつくままに書いていったので、だいたい30分程度で50個くらい書き出せました。あとは、街中を歩いているときに思いついてノートに書き留めることもありました。200個くらいの言葉を考えるのに、1週間くらいかかりましたね。
—200個の言葉から40個を選び出した基準はありますか?
個人的に使いたい言葉を選んでいきました。これってあまりにもベタな表現だな、というものもあったんですけど、それくらい分かりやすいものを入れたほうが若い世代に響くのかなと思って、あえて選んだものもあります。「おまわりさん、こいつです」とか「という夢を見たんだ」とかですね。ネットなんかで見かけますよね。
—落書きのキャラクター設定を前提に言葉を考えましたか?
そういうわけではないですね。落書きの元になった「刑天」の性格はまったく知らなくて、造形だけに興味があったんです。顔も、こんなんじゃなかったと思います。だから、キャラクターから言葉を考えたわけではなく、別に考えた言葉とコイツがくっついたという感じです。そうすると、口調もバラバラになってきて、違和感が出てきました。キャラクター設定を前提にしていなかったので。
それなら、キャラクターも口調ごとに分けたほうがいいかなと思って、いくつかキャラクターを作りました。スタンプのキャラクターは、全部Mrジェイムスだと言われることが多いんですが、実は別キャラクターとしてハキームさん、しげるくん、武士がいるんです。乱暴なやつがいたり、他人の話を聞かないで自分の好きなことばかり言っているやつがいたり、武士語を使うやつがいたり、いろいろなキャラクターがいても面白いのかなと思い、言葉に合わせてキャラクターを作っていきました。
—Mrジェイムスの名前の由来を教えてください。
元になった落書きが描いてあったノートは大学時代に使っていたもので、その落書きの片隅に「ジェイムス」って書いてあったんですね。なぜ、自分がそう書き込んでいたのかはまったく覚えてないです。授業の内容として書いていたのか、それとも落書きのキャラクターの名前として書いたのか......。だから、このキャラクターは、なぜかジェイムスなんです(笑)。スタンプタイトルには迷わずジェイムスを使いましたね、Mrは付け加えましたけど。
リジェクトされたときも楽しかった
—言葉を書き出した後の、スタンプ制作からリリースまでどれくらいかかりましたか?
言葉を考えてすぐ制作に取り掛かったので、4月の中頃までには作り始めていましたね。スタンプ画像の制作が終わったのは1カ月後くらいかな。だいたい1日に1個くらいのペースで作っていきました。5月上旬にクリエイターズマーケットにスタンプを登録申請して、リリースできたのは7月25日です。
ただ、一度リジェクトされたんですよ。
—リジェクトの理由は、何だったんですか?
……続きは、書籍で!(インタビューは書籍からの転載です)
書籍に登場するスタンプとクリエイター
- Mrジェイムス(カンノマサヒロ)
- 関西弁にゃんこスタンプ(きゃらきゃらマキアート)
- 寿司ゆき(あわゆき)
- ヒロシ(浅見二加)
- メガネっ娘スタンプ(peperonchiiinoko)
- もみじ饅頭のお酒(中国醸造株式会社)
- ざっくぅ(J:COM)
(敬称略)