スクウェア・エニックス ジェイコブ・ナボク氏
Android OS搭載のメガネ型端末であるGoogle Glass。2012年に発表され、主に開発者向けに限定的に提供された注目のウェアラブルデバイスは、果たして普及するのか?
7月23日から25日に開催されたイベント「モバイル&ソーシャルウィーク2013」(主催:日経BP社)の中で行われたパネル・ディスカッション「スマホ、タブレットの次に来るのはGoogle Glass? -眼鏡型、腕時計型…ウェアラブルデバイスは本当にヒットするか-」で、識者がGoogle Glassを中心にウェアラブルデバイスの可能性と課題を語った。
今回、そこで語られた中で、アプリオで度々取り上げてきたGoogle Glassに着目してディスカッションをまとめた。
パネラーは、ジェイコブ・ナボク氏(スクウェア・エニックス・ホールディングス)、伊藤元氏(ピグマル)、梶井祐介氏(ブリリアントサービス)、道蔦聡実氏(カシオ計算機)。
Google Glassの可能性
左から道蔦聡実氏(カシオ計算機)、梶井祐介氏(ブリリアントサービス)、伊藤元氏(ピグマル)
ナビがすごい
日常的にGoogle Glassを使用した経験のあるジェイコブ氏(スクエニ)は、「車の運転中のナビゲーションが一番すごいと感じた。また、写真の撮影や動画の録画もいいが、特にGoogle Nowとの連携は素晴らしい」と語る。「Google Nowで行き先の情報が表示され、ナビ情報によって自分がどこを運転しているのか分かる。スマホでもそれは可能だが、情報が常に目の前にあるのか否かによって体験が変わってくる」
「いま開発者にできるのは、現状のWeb APIの中で何ができるのかを考えること。まだ機能面で制限があるが、今後の拡張によってGPSやARなどを活用できるようになればゲームをより楽しいものにできる」と話すジェイコブ氏は、「近い将来に位置情報ゲームをお見せできるだろう」とも語り、Glassを活用したゲームが開発中であることを匂わせた。
使う場所は限られる?
ナビゲーションやGoogle Now、GPSやARの活用…これらを実現できるのは、Google Glassというメガネ型端末の中にAndroidの機能が入っており、スマホとの連携がそもそも不要であることが大きい。
しかし、そうだとしても使う場所は限られてくるのではないか、と語るのは伊藤氏(ピグマル)だ。「ゲーム向けのアイデアとしては、GPSやARを活用したものが多い。ただ、実用的な話だと、オープンな環境よりもイベント会場限定などでの利用が向いているのではないか」として、日常的に使う場所は限られてくるのではないかと予想する。
ARとの相性の良さ
他方、梶井氏(ブリリアントサービス)は、Google Glassが常時着用していて苦ではないデバイスとしての魅力を強調する。
初音ミク ARステージ
「先日、六本木ヒルズで行われた初音ミクのARイベントはスマホで見るので5分が限界だった、というか5分で丁度よかった。スマホだと手が疲れるが、メガネ型だと疲れない。ARとメガネ型の相性はよく、ARはオワコン(終わったコンテンツ)ではないと考えている」
Google Glassが克服すべき4つの課題
1. プライバシー保護と文化・法令
Glassの発表後、真っ先に問題となったのがプライバシー問題だ。
ジェイコブ氏が「Google Glass着用ユーザしか参加できないイベントでは、誰が誰を動画で撮影しているか分からなかった。少し怖かった(笑)」と語るように、ビデオ・カメラ・スマホなどと異なりGoogle Glassでは撮影中なのか否かが一見して分からないため、周囲に不安感を与えるデバイスであることは事実だろう。
そのため、アメリカなどでは、店内でGoogle Glassの使用を禁止する店なども現れてきている。
常時利用できるメリットと、常時利用しているがゆえのデメリットをどのように調整していくのか。伊藤氏は「技術的に解決していく方向で考える必要があるのではないか」と指摘したが、そこには文化・法令などが密接に絡む難しさがある。テクノロジーに私達の社会が追いついていない事例の最先端が、まさにGoogle Glassのプライバシー問題だろう。
また、同様に議論されているのが自動車の運転中におけるGoogle Glassの使用禁止についてだ。
たしかに、運転中、常に視野にナビゲーションやその他の様々な表示が可能であるため、事故につながる危険性は見過ごせない。
この点に関して、当初危険視されていたカーナビが、現在では多くの乗用車に搭載されるようになった経緯について参考にすべきだろうという梶井氏の見解は説得力がある。
一定速度で走行中はGoogle Glassの利用用途をナビに限定するなど、技術的な解決が図られるのかもしれない。
2. 音声認識の精度
いま、英語を母国語としないユーザがGoogle Glassを使った時に大きな壁となり得るのが、音声認識だ。音声による指示の発音に、正確性が要求されるからだ。
たとえば、写真を撮影するためには”OK Glass, take a picture.”と、音声で正確に指示しなければならない。
伊藤氏は、「オンラインのWeb検索はうまくできる。ネットで補完されるので。ただ、オフラインのコマンド(指示)は、かなり正確に発音しなければ厳しい」と苦笑する。
同様に「日本人の英語だと厳しい。しかもiPhoneのSiriはオプションだったので使わないという選択肢があったが、Glassでは音声認識を使わざるを得ないデバイスだから尚更厳しい」と感想を述べるジェイコブ氏だが、将来は楽観視しているとのこと。
「音声認識は膨大なデータ量を必要とする。常に音声認識を使用するので、(データ収集も容易であり)それに伴ってGoogle Glassの進化スピードは加速する。10年後には大きな変化が見られるだろう」(ジェイコブ氏)
3. 電池の持ちの悪さ
メガネ型端末として常に着用することを考えると、大きな課題となるのが電池の持ちの悪さだ。
普通に使っていると1日も持たない。そうすると、充電を頻繁に行う必要が出てくる。メガネを頻繁に充電させる習慣に人々が適応するかどうかは1つの鍵となるだろう。
では、バッテリーを増設すれば良いのだろうか?しかし、梶井氏が「電池の容量を増やすと、ふつうは重量が重くなる」と言うように、電池と端末重量はトレードオフの関係にある。Glassの普及にとって、バッテリーの進化が重要になるはずだ。
4. ファッション性
痛い
「周囲からの視線が痛い。ヒソヒソ声が聞こえてくるようだ」
日常的にGoogle Glassを利用した経験のあるジェイコブ氏は、その”痛さ”をカバーするためにサングラスのアクセサリを使用しているとのこと。
梶井氏と伊藤氏もGlassの大きな課題としてファッション性を挙げる。
「スマートウォッチなどと異なり、常に顔にかけることになるので、高いファッション性が求められる。画一的ではなく、多様な種類の端末が用意されないと、普及は難しいのではないか」(梶井氏)
スマートウォッチとの違い
ファッション性の有する意味がメガネとスマートウォッチではがらりと異なるのではないか、とファッション性について含蓄のある考え方を紹介したのはスマートウォッチ開発者の道蔦氏(カシオ計算機)だ。
「時計は少し異質な商品。なぜかというと、機能性と価格が反比例する傾向にあるからだ」と道蔦氏が分析するように、たしかに時計業界では様々な機能を付け加えた時計はシンプルな機械式時計よりも低価格になる傾向が見られる。
「つまり、高機能なスマートウォッチは、ファッションで付加価値を付けないと価格を上げられないのではないか、と思う」
ファッション性が普及の必要条件となりそうなGoogle Glassとは、また異なるファッション性に関する悩みが、スマートウォッチにはありそうだ。
何が普及の決め手になるか?
結局のところ、Google Glassが普及するとすれば何が決め手になるのか?
キラーアプリは、ナビアプリなのか、ARアプリなのか、それともゲームアプリなのだろうか。
まだ、そこに答えは出ていない。80年代のビデオデッキの一般への浸透と同様に、ポルノのための利用が普及への隠れた立役者になる可能性も無い話ではない。
このような誰もが手探りの現在、「アプリがどうというわけではなく、常にウェアラブルな状態を作ること。それこそが"キラーアプリ"になる」と述べる伊藤氏の見解は示唆に富む。
”何が”普及させるのかではなく、”なぜ”Glassのようなウェアラブルデバイスを常に身につける必要があるのか、その必要性を追求することが重要なのかもしれない。