ディズニープラスで独占配信中の韓国ドラマ『優しい男の物語』は、ヤクザの青年とミュージシャンになる夢を追いかける女性の甘く切ないラブロマンスです。ユーモアと優しさに満ちた物語が展開しつつも、暴力の世界で生きてきた主人公に襲い掛かる理不尽さも描かれる異色の恋愛ドラマです。
ヤクザらしからぬ「優しい男」のソクチョル
物語の主人公は、イ・ドンウクが演じるヤクザのソクチョル。しかし、ヤクザという言葉が連想させる男とは一線を画したキャラクターであるのが本作の特徴です。ソクチョルは青春時代に小説家を志し、今も詩を愛して甥っ子の面倒をよく見る心優しい男です。詩の教室で「ナイフで刺す」という物騒な内容の詩を発表して周囲をドン引きさせたこともあるのですが、それは彼が生きる荒んだ世界を映しているだけ。警察官や医者の親友がいて、行方不明になった姉の借金を背負い、母親を気遣う家族思いの一面も持っています。なにより、ヤクザにもかかわらず暴力を振るうことを好みません。
ソクチョルがヤクザにならざるを得なかったのは、父親の影響です。父もまたヤクザ稼業であったために無理やり将来を決められてしまったのです。そんな彼が何より望んでいるのは、ヤクザ稼業から足を洗い、平穏な生活を送ること。しかし、現実はそう甘くありません。
彼をこの世界に引きずり込んだ張本人である父親が新たな借金を作ろうとしたり、トラブルメーカーの姉が舞い戻ってきたり……。皮肉なことに、彼が大切に想う「家族」こそが、自由になろうとする彼を縛り付ける重い鎖となっていくのです。
さらに、足を洗うための最後の仕事として任された住民への立ち退き交渉では、あくまで穏便に済ませようとする彼の「優しさ」によって思わぬ騒動に発展してしまいます。
傷を抱えたピアニスト・ミヨンとの運命の再会
そんなヤクザらしからぬソクチョルは、青春時代の初恋相手・ミヨン(イ・ソンギョン)と再会します。
彼女はYouTubeでピアノの弾き語りを披露し、ちょっとした有名人になっていました。音楽の才能あふれる女性ですが人前で歌うことができないというハンデを抱えています。しかも、入院中の母親を一人で介護し、バイトを掛け持ちする苦しい生活をおくっています。
そんな2人が、運命の再会を果たしてかつての恋心を思い出すのです。学生時代に淡い恋心を抱きあった甘酸っぱい記憶を思い出し、共有することになります。ソクチョルは、彼女からもらったヘミングウェイの本を今でも大切に持っており、彼の根っからの純情さが伝わってきます。このあたりの描写もヤクザらしからぬものがあります。
ミヨンの抱えるトラウマを知ったソクチョルは、彼女を優しく励まします。そんなソクチョルの温かさに触れ、ミヨンが少しずつ歌声を取り戻していく姿は、2人の心の距離が縮まっていくのを感じさせてくれます。
本作はそんなソクチョルとミヨンの恋愛の行方を縦軸にしつつ、ソクチョルがヤクザから足を洗えるのかと家族の関係を横軸に展開していきます。借金まみれのトラブルメーカーの姉の存在や、自分をヤクザにした父親との関係など、いくつもの難題がソクチョルに降りかかるのです。
裏社会を題材にした作品ですから、アクション・シーンもそれなりにあるのですが、全体的にはコミカルな場面も多くみられ、血なまぐさい印象は与えません。犯罪ドラマが苦手な人にも見やすい内容と言えるでしょう。純情なヤクザという、意表を突いた主人公像が新鮮で、ロマンティックな作品を見たい人には自信を持ってお勧めできる一本です。
『優しい男の物語』を見る(ディズニープラスで配信中)
ここに人生を後悔する男がいる。職業はヤクザだが、根が優しくヤクザに向いていないソクチョルだ。スーツをパリッと着こなし威張り散らすようなヤクザではない。普通の日々を生きる私たちと変わらない、厳しい現実にも新しい人生を夢見ているヤクザだ。
一方で、自分の人生を切り開こうとする1人の女性がいる。アイドルではなくシンガーソングライターを目指すミヨンだ。夢を叶えるために、そして病気の母親と幸せになるために、一日一日を耐え抜いているミヨンに、新しい人生に出会うチャンスが訪れる。
不器用であろう2人の愛は、彼らを夢の実現に導いてくれるのか。大丈夫。夢は叶わなくても、また人生は始まるだろう。太陽が再び昇るように。
『優しい男の物語』は、熱く燃え上がり消えてしまう白熱電球のような人生を送る人たち、少しつまずいている人たちのための希望の応援歌だ。
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