専門用語って実は結構怖いな、と思うことがあります。難しい病名を出されて自分がそれに罹っていると言われれば、そうなのかと思ってしまう。PCの不具合も、納得のいかない毎月の請求項目も、よくわからない言葉の羅列が人の思考を停止させてしまう。
例えば「虚血性心疾患」。国内で発生した不自然死の8割以上が解剖されることなく適当な死因を付けられて荼毘に付される中、突然死の死因として最も多用されている病名です。
でも、昨日まで何の問題もなく健康に暮らしていた人が突然亡くなったとして、「たいていそういう場合の死因は虚血性心疾患です」という説明は、考えてみればあまりにも不自然かもしれません。
ドラマ『アンナチュラル』の主人公・三澄ミコト(石原さとみ)は法医解剖医。彼女が務める「不自然死究明研究所(unnatural death Investigation laboratory)」には、全国から死因不明の遺体が年間400体以上運び込まれてきます。自治体や個人などの依頼を受けて、遺体を解剖して死因を特定するのが彼女たちの仕事。ドラマの中でしか存在しない架空の組織ですが、死因不明の遺体のほとんどが真の原因を特定されないまま火葬されてしまう、この国の現実が背景にあります。
それを踏まえて観ると、背中に寒いものが走る本作。一人の男性の死が組織や国を震撼させる事態に繋がる冒頭話では、一人の人間の存在の重さをずっしりと感じると共に、「ね?怖いでしょ?」と言われているような気持ちに。
1時間に内容がぎっしり詰め込まれた、一話完結型のまったく飽きさせないストーリー展開。これをさらに盛り上げるのが、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』で注目を浴びた脚本家・野木亜紀子氏ら注目の女性スタッフが手掛けたセリフや演出の妙味です。
テンポよく解明される死の真相と、じわじわ見えてくる登場人物たちの背景
「不自然死究明研究所(unnatural death Investigation laboratory)」、通称「UDIラボ」では、法医解剖医の三澄ミコトと臨床検査技師の東海林夕子(市川実日子)、記録員の久部六郎(窪田正孝)、同じく解剖医の中堂系(井浦新)と臨床検査技師の坂本誠(飯尾和樹)が2班体制で日々運ばれてくる遺体の執刀・解剖にあたります。
ある日、健康だった息子が突然死した際の死因に納得がいかない中年夫婦が、遺体解剖の相談に訪れます。亡くなった高野島渡の当初の死因は「虚血性心疾患」でしたが、執刀にあたったミコトが発見したのは肥大化した腎臓。真の死因が「急性腎不全」=毒物による死亡であることが判明します。
さっそく高野島の自宅を調査するも、特定の薬物は見当たらず。調査中、彼の同僚の女性が、高野島が亡くなった翌日に突然死していたことがわかります。連続毒殺事件の可能性も浮上する中、ミコトらが接触したのは高野島と交際していた女性・馬場路子。彼女が仕事で扱っていたのは、劇薬毒物製品。点と点が繋がったかとおもいきや、事態は予想もつかない方向に展開していきます。第1話のラスト10分の衝撃には驚きを隠せません。
テンポよくスリリングに進む物語と並行して、登場人物それぞれが抱える重い過去や人生の課題も描かれる本作。
「今より忙しくなると課外活動に差し支えますね。今月は出ませんでした。赤い金魚」。そっと語りかける葬儀社の男に、中堂は「引き続き頼む」と現金を渡します。結婚を決めたミコトに「その男さ、姉ちゃんのこと知ってんの?本当に知ってんの?」と尋ねる弟。「私の家はここだけ」と答えるミコトの誰も知らない壮絶な過去とは。
窮地に立たされた時ほどよく食べるミコト。明日の命がないかもしれない状況で、「明日の夜空いてる?美味しいもの食べに行こう。なんでもおごる。明日、何食べよっかな」と呟く姿は、観ていて救われる思いがします。
石原さとみ・井浦新らの、さりげない演技が物語にすっと感情移入させてくれる、1話ごとの満足度がとても高い、入念に作り込まれた作品です。
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