スーパーヒーローの活躍と共に、現代社会が抱える課題を見つめ続けるマーベルシリーズ。その最新作である『シークレット・インベーション』は、「テロと難民」という一際難しいテーマを掲げたスリリングなサスペンス大作です。
本作の主人公はヒーロー軍団「アベンジャーズ」を束ねてきたニック・フューリー。『アベンジャーズ・エンドゲーム』以降、姿をくらました彼が久々に地球に帰還し、過去にけじめをつけるべく戦いに挑む姿が描かれます。
擬態化能力を持つ宇宙難民に立ち向かうニック
本作の舞台は現代のロシアです。「国際平和維持組織S.H.I.E.L.D.」の元長官であるニック・フューリーはかつて、故郷を滅ぼされ難民となっていた異星人「スクラル人」に、自分達に協力すれば新しい故郷を必ず見つけてみせると約束していました。
その約束が交わされたのは1995年。映画『キャプテン・マーベル』で描かれたクリー人とスクラル人をめぐる戦いのさなかのことです。それから月日が経過しましたが、ニックはスクラル人の住める新たな惑星を未だに見つけられていないばかりか、その後に姿を消してしまいます。地球に残ったスクラル人たちは後ろ盾を失った状態になっていました。
スクラル人はあらゆるものに擬態化できる特殊能力を持っており、普段は地球人の姿で社会に溶け込んで暮らしています。そんな彼らの一部が地球を乗っ取るためにテロを計画します。擬態によって誰がテロリストなのか判別がつかない状態の中、ニックは「シークレット・インベージョン」(=地球侵略計画)の阻止に向けて手を尽くすことになるのです。
スクラル人を率いるタロスと共に調査に乗り出すニック。MI6(秘密情報部)の存在なども絡んで複雑な様相を呈する中、約束を果たさずにいるニックを恨む反乱分子を中心に、粛々とテロの計画が進んでいきます。
誰が敵か味方かわからない上、国際政治の中枢にも反乱分子のメンバーが潜り込んでいる可能性すらあり、疑心暗鬼の中でニックはさらに困難な状況へと追いやられていきます。
アベンジャーズを導いたリーダーは、過去の自分とどう向き合うのか
難民宇宙人によるテロという特殊な題材をテーマとした本作は、テロの恐怖だけでなく漠然とした不安に包まれています。ニックだけでなく視聴者も一体誰がテロリストなのかわからない混沌とした状況に置かれることとなり、それがまさにサスペンス要素を高める効果へと繋がっています。
同時に現代の私たちに対する強烈な社会的メッセージが込められている作品とも言えるでしょう。不安からくる恐怖心から、不必要に差別的意識を持ってしまう人間の特性や、いとも簡単に偏見が生み出される現実を象徴するかのようなストーリー展開が特徴的です。
この物語の発端は、ニックがスクラル人にした過去の約束です。ニックに協力的なタロスでさえ、彼を情けなく思う感情を抱えていることがわかります。自分達とは違う価値観を受け入れる難しさを理解しながら、実際にそれを行動に移すことは並大抵のことではありません。それでも、ニックが自分の発言にどうけじめをつけるのかが、この物語の大きなポイントとなるでしょう。
また、これまで謎に包まれていた彼のプライベートが一部明かされるのも見どころの一つ。ニックの人物像を掘り下げて知ることができるのも本作の魅力です。
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『シークレット・インベージョン』のストーリー
アベンジャーズのリーダー、ニック・フューリーが、擬態化能力をもつ異星人の地球侵略計画と戦うサスペンス・スリラー。誰が敵か味方かわからない状況でニックが対峙する過去と未来とは。
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