現代の日本を克明に描いた庵野秀明監督の大ヒット作──映画『シン・ゴジラ』

多くの人を楽しませた上で、社会の問題について考えてもらう。社会性と娯楽性を両立させるのは、どんな作品でも難しいことです。

しかし、それをやってみせるのが傑作というもの。怪獣映画の元祖・初代『ゴジラ』は、そんな難しさに果敢に挑戦して大成功した作品です。太平洋戦争集結から10年も経たない時に公開されたこの映画では、核兵器の恐ろしさをゴジラという存在に込め、東京の町並みを破壊します。当時の観客に東京大空襲を否応なく思い起こさせたことでしょう。忘れてはならない戦争の記憶を焼き付け、なおかつ娯楽映画として滅法面白い作品です。

『エヴァンゲリオン』シリーズで知られる庵野秀明監督による『シン・ゴジラ』は、そんな初代ゴジラの姿勢をとても強く受け継いだ作品です。3.11から5年後に公開されたこの映画は、現代の日本社会を鋭く批評しながらも、圧倒的に面白い作品に仕上がっています。

3.11後の日本社会のリアルを描く

東京湾沖で異常な水蒸気が確認され、東京アクアラインのトンネル内で起きた浸水についての報告が官邸に入るところから、物語は始まります。

内閣官房副長官の矢口蘭堂(長谷川博己)は、巨大生物によるものだと進言しますが、相手にされません。しかし、それが多摩川河口から上陸すると事態は一変。政府は自衛隊による駆除を決定しますが、意思決定の遅さと人命救助優先のために攻撃が遅れ、被害は拡大していきます。

映画の前半は、3.11の動画で見せられたような津波、放射性物質の不安、二分される世論など、3.11後に日本人の多くが体験したものをそのまま見せられているかのような臨場感あるシーンが数多く見られます。

日本人は事なかれ主義で、決めるのが遅いとよく言われることですが、まさにそのネガティブな日本人のメンタリティによって、ゴジラの被害は拡大してしまうのです。

この映画が面白いのは、そんな日本人のメンタリティのネガティブな側面を描いたかと思えば、後半では危機の時に一致団結する日本人のポジティブなメンタリティをも描いているところ。感動的です。

数々のオマージュと引用

オタク第一世代の庵野秀明氏が監督なだけあって、本作にはたくさんの映画やアニメからの引用があります。

ゴジラを倒すために立案される「ヤシオリ作戦」の進行過程は、庵野監督自身の代表作『新世紀エヴァンゲリオン』のヤシマ作戦によく似ていますし、挿入曲も同じものを使用しています。

音楽といえば、ゴジラのテーマ曲を作曲した伊福部昭氏の『宇宙大戦争』のテーマ曲を使用しています。この曲は、庵野監督が大学時代に作った自主制作アニメにも使用している、監督のお気に入りの曲です。

この映画には、会議のシーンがたくさんあるのですが、これは岡本喜八監督の名作映画『日本のいちばん長い日』の影響と言われています。映画に登場しませんが、物語の鍵を握る重要人物・牧悟郎の遺影に岡本喜八監督の写真を使用していることからも、庵野監督が大変にリスペクトしているのがわかります。

そして、多くの観客が拍手喝采したクライマックスのギミックは、特撮ファンなら感涙もの。他にも挙げ始めるとキリがないくらいの引用がありますので、何度も観て探してみるのも楽しみの一つでしょう。

庵野監督の実写映画の初めての大ヒット作としても貴重な作品で、まさに傑作と呼ぶにふさわしい作品です。

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構成・文:杉本穂高

編集:アプリオ編集部