日本はものづくり大国として経済大国にのぼり詰めた国ですが、それも今や昔の話、と感じている人は多いかもしれません。たしかに最近は古い慣習にとらわれて、新しいものを生み出せていないと感じられることが多々あります。
イノベーションを起こすには新しい技術開発が必要でしょう。しかし、古い技術には価値はないのでしょうか。いえ、そんなことはないはず。『半沢直樹』でおなじみの池井戸潤原作の新ドラマ『陸王』は、古い技術に新たな価値を見出すユニークな物語です。
古い技術でイノベーションを起こす物語
『陸王』は、足袋づくり100年以上の実績を誇る老舗企業「こはぜ屋」が、倒産の危機を脱するために、新規事業としてランニングシューズの開発に取り組む様を描いたもの。実話をもとにした物語であり、「こはぜ屋」のモデルは『無敵』という足袋をベースにしたランニングシューズを作り上げた「きねや足袋」です。
“足袋”という古い製品のための技術で、今までになかったまったく新しいランニングシューズを作るという、古い技術でイノベーションを起こした会社の奇蹟の実話をもとにしたこのドラマは、いつの時代も変わらない、ものづくりの大切な何かを描いています。
足袋の技術が現代のランナーの課題を解決できる?
創業以来、足袋一筋で経営を続けてきた「こはぜ屋」。その四代目社長、宮沢紘一(役所広司)は、時代とともに先細る足袋の需要に頭を悩ませる日々。そんな中、新規事業に乗り出すことに決めた宮沢は、足袋の持つ裸足感覚の履き心地が、人間本来のランニングフォームを引き出せることを知り、足袋の技術がランニングシューズに活かせるのではないかと思いつきます。
足袋の会社がランニングシューズを作るという突飛な発想に、融資元の銀行も渋い顔をし、勝手の違うシューズ作りに大きな苦戦を強いられます。
失敗に次ぐ失敗を経て、少しずつ改良されていく「こはぜ屋」のランニングシューズが完成に近づき、怪我からの復帰を果たそうとする若いマラソンランナー・茂木裕人(竹内涼真)の復活とともに、古い企業の再生を交差して物語を紡いでいます。
本作は、イノベーションはどのようにして生まれるのかについての学びになるでしょう。現代のランナーが足を痛める理由に、足の裏全体で着地していないからという課題に対して、古い足袋の技術がそれを解決できることを発見する点がこの作品の面白いところです。古臭いものも、視点を変えれば価値を生み出せるという、とても良い例です。
そして、試作品の足袋シューズの山が象徴的ですが、新しいものを生み出す影には、多くの失敗とチャレンジが必要なこともこのドラマは示しています。課題を見つけることと、試行錯誤。このドラマは、その重要な2つを情熱的に描いています。
日本を代表する演技派俳優・役所広司の演技はやはり見応えがありますし、竹内涼真や山﨑賢人もそれに負けじと素晴らしい存在感。脇を固める役者も演技派揃いで、内容もさることながら、演技合戦を見るのも楽しい作品です。