LAの夢追い人たちによる恋物語、古き良き時代の映画へのオマージュが満載の映画『ラ・ラ・ランド』

冒頭、高速道路の渋滞でイライラしているドライバーたち。ちっとも進まないせいでクラクションが鳴り響くなか、軽快な音楽が流れてきて女性ドライバーが歌い出す。そこから渋滞にハマっている人たちが一斉に飛び出し、愉快に踊りだすオープニング。毎日の渋滞のイライラ(ロサンゼルスは車社会なので渋滞が多いのです)を吹き飛ばすかのような楽しげなシーンから始まる映画『ラ・ラ・ランド』は、古き良き時代の映画へのオマージュをたくさん込めた、夢と恋の物語です。

タイトルの『ラ・ラ・ランド(LA LA LAND)』というのは「夢の国」という意味で、ロサンゼルス(LA)の愛称です。夢を持った人が集まり、世界中の人に夢を見せる映画の都・ハリウッドを擁する街でもあります。そんな街で生きる男女の夢と恋を描いたロマンチックなラブストーリーです。

恋と夢、どちらを取るか

物語はロサンゼルスでお馴染みの大渋滞から始まります。車社会のLAでは渋滞は日常茶飯事、そんな時間をいかに有効に過ごすかを考えるのも日々の生活では重要です。

女優を志すミア(エマ・ストーン)は、渋滞の最中にオーディションの台詞の練習をしています。そんなミアを後ろから煽るのが、ジャズ・バーを開くことを夢見る青年セブ(ライアン・ゴズリング)。2人の出会いは最悪ですが、ともに夢を追う者同士、再会した後に惹かれ合い、2人は愛し合うようになります。

LAは夢を持つ人が集まる街。ミアのようにウェイトレスをしながらオーディションを受ける日々を送る女優の卵はたくさんいますし、セブのようも売れないミュージシャンもたくさんいます。けれど、すべての人が夢を叶えられるわけではありません。それに自分の夢が実現すればするほど、プライベートの時間も削られるもの。夢に向かって邁進する2人はいつしかすれ違うようになってしまいます。

夢と恋。その2つが両立するのかという題材は、古今東西多くの物語で語られてきました。一度しかない人生、夢を取るのか恋を取るのか、そういう運命の分かれ道の選択をこの映画ははかなくもやさしく描いています。

ハリウッド全盛期の作品へのオマージュ満載

この映画の舞台は、スマートフォンなども登場するので現代なのですが、パッと観た瞬間の印象では現代に見えないかもしれません。それもそのはず、この映画は衣装なども含めてビジュアル面では1940〜50年代のクラシックなハリウッド映画を意識しているからです。

40〜50年代というと、まだテレビが普及する前、映画産業がものすごく輝いていた時代で、本作のジャンルでもあるミュージカルの全盛期と言われています。その当時のミュージカル映画へのオマージュも随所にちりばめられているのも本作の特徴。例えば、映画の最後の幻想的なミュージカルシーンは『巴里のアメリカ人(1951)』の引用ですし、セブとミアが夜の道で踊るシーンは『雨に唄えば(1952)』によく似ています。その他『シェルブールの雨傘』など上げればキリがないくらい、たくさんの映画へのオマージュにあふれています。

また、この映画は最新のCG技術などを使わずに、当時の撮影技術だけで作っているのも驚きです。ファンタジックな宇宙空間のシーンや、2人が踊りながら宙に浮くシーンなどもすべて撮影現場のセットや特撮技術でやりくりしています。もちろん、冒頭の高速道路のダンスシーンも、本物の道路を借り切って撮影しており、背景などに合成はありません。映画の内容だけでなく、撮影方法にも昔の映画への愛が見てとれます。

夢の国を舞台にした、夢を見て、夢を見せる人が集まる街の、夢のような恋物語。こんな風に人生を生きてみたいなと思わせてくれる素敵な作品です。

動画配信サービスの「Hulu」、「dTV」、「U-NEXT」、「Netflix」、「Amazonプライム・ビデオ」では、『ラ・ラ・ランド』が見放題です(2020年3月10日時点)。

構成・文:杉本穂高

編集:アプリオ編集部