「つらい」「苦しい」「逃げ出したい」と思いながら、頑張って毎日を生きている人は多いはずです。逃げ出さず、果敢に立ち向かう人が美徳とされていますが、現実的に言えば逃げ出さなくてはならない時は確実にあるもの。時には逃げ出してみる、頑張ることを休んでみる、忘れてみることも人生にとっては必要なのです。
本書は、生前に漫画家、小説家、脚本家として活躍し、Twitterのフォロワー数88万人を誇る著者・小池一夫氏が、長年Twitterにつぶやいてきた自分を休めるための225の言葉を厳選し、まとめたものです。人生に行き詰まったときや、苦しみもがいているときだけでなく、ストレスの多い現代社会に生きるすべての人の心に、きっと刺さるはずです。
参考文献:『だめなら逃げてみる 自分を休める225の言葉』(小池一夫著/ポプラ社〔2018年10月出版〕)
逃げるのは「甘え」だと思っていませんか?
「人生がつらい」と感じていませんか。そう思ってしまうのは「自信をなくしている」からかもしれません。自信をなくしている自分は、もろく弱いもの。ちょっとしたことに傷ついて、さらに自信を失うという悪循環に陥りやすくなります。もし自分の周りに、やたら攻撃をしたり、傷つけたりするなど、あなたの自信を無くそうとする人がいたら、すぐに距離を置いてください。なぜなら、あなたを自分の言いなりにしたいか、潰そうとしているかのどちらかしかないからです。
とはいえ、学校でも社会でも、どんな人とも仲良く接することを求められるのが現実です。しかし、「一緒にいるべきではない人」は確実にいます。一緒にいてその時は楽しくても、後から考えてみると自分がしんどい思いをしていたり、損ばかりしている場合もあります。後味が悪いと感じる人には、近づかないのが得策。たとえその人が肉親や近しい人だったとしても、心や態度の距離をとりましょう。
また、成功している人や立派に生きている人と自分を比べて、「自分はこんな人間だし、こういう生き方しかできない」と卑屈になってしまうことがあります。しかし、自分ではない誰かに任せるという考え方も大切。全部、自分が人よりオールマイティーに勝っている必要はありません。人よりも劣っていることは、誰かに任せればよいだけのこと。「自分が得意ではないことは、基本的にやらなくていい」というのが、著者が語る人生の結論です。自分の不得意は誰かの得意なことで、その人に任せればよい。これは、努力の放棄ではありません。努力の方向を間違えてはいけないということ。すべてを完璧にやろうとすると苦しくなるので、できる限り頑張るけれど、完璧はあり得ないのだと気持ちを楽に持っているとうまくいきやすくなります。
そして、何もかも面倒くさくて逃げ出したいときは、小さな旅に出るのがおすすめ。半日でもよいので、今いるところから逃げてまた日常に戻ってみてください。
「逃げること」は悪いことではありません。体の不調は医師と相談しながら治せますが、心が壊れたら治療は10年単位になります。心が壊れそうになったら、逃げる体力と気力があるうちにすぐに逃げてください。逃げてから生きて、生きてから再び戦えば大丈夫。周囲の人たちからすれば、逃げる行為が甘えに見えるかもしれませんが、自分にとっては限界だと思えることはよくあること。また、自分の心の強さや弱さは自分でさえも認識を間違えます。取り返しがつかないくらい体や心を壊したとき、休みを取ることを悪く言った人たちは、責任などは取ってくれません。自分のことは自分で守るしかないので、人からたとえ「大丈夫」と言われても、最終判断は自分で下すようにしましょう。
人間関係で悩んでいる人へ
生きていれば、好きな人と嫌いな人が必ず出てきます。自分でも他人を「好き」「嫌い」と感じるように、自分もみんなから好かれる必要はありません。この言葉を意識するだけで、どれだけ人間関係のストレスが減るでしょう。「誰でも、うまくいくときと上手くいかない時はある」と割り切って、嫌われて生きればよいのです。
実は、人の「嫌い」には「理由があって嫌い」と「感情で嫌い」の2種類があります。理由がある場合は直せばよいのですが、感情で嫌いと言われたら、例え良いことをしたとしても否定され続けます。感情で人を嫌いになったり嫌われたりしたときは、無駄に好かれようとは思わず、理屈抜きで距離を置くのが正解です。
また、他人との関わりの中で生きていると、自分の性質がわかってくるものです。大切なのは、自分の性質には逆らわないようにすること。約束が苦手なら、最初から約束しないで緩やかに人と繋がる、片付けが苦手なら、最初から物を増やさないでおくというように工夫してみてください。結局、自分が持って生まれた性質は変わらないので、性質に自分を合わせるという生き方が一番生きやすいものです。
会話の一環で「○○さんはスマートに何でもこなす人という印象があります」などと言われることもあると思いますが、他人が自分に抱いているイメージに縛られて、自分らしさを制限するのは非常に窮屈です。イメージを壊さないようにとついつい頑張ってしまうものですが、「自分らしく生きている姿が自分自身だ」ということを忘れてはなりません。他人のかけている色眼鏡の色まで気にしながら生きていかなくてもよいのです。それで離れていく人は、しょせんその程度の関係だったということなので、気にする必要はありません。
これまで、「自分の性格を大切にしよう」と言ってきましたが、過度な自己肯定は危険です。自分の性格の悪さは自分では気づきにくいもの。なぜなら、人を不快にさせる性格にも、自分なりの言い分があるためです。性格の悪さは、放っておくとどんどん増していきます。特に大人の世界では、その人のために忠告してくれることはほとんどなく、静かに離れていきます。人が離れ始めたら自分の性格に注意してみましょう。
生きることがつらいと感じている人へ
「あの時、こうすればよかった」「なんでこんなことになってしまったんだろう」と後悔するのは、「自分で決断しなかったこと」ばかりです。失敗しても、自分が決断した失敗は納得できます。最悪なのが、誰かのせいで失敗した場合です。失敗を人のせいにしている間はなかなか次に進めませんが、誰かを選ぶと決めたのも自分なので、結局自分の失敗はすべて自分の決断だと考えましょう。
確かに、「人のせいにしない」で生きることは難しいもの。うまくいかないことは、どうしても心のどこかで誰かを悪者にしてしまいます。しかし、そう思うことをやめると心がスッとして洗われた気分になります。「人のせい」ではなく「自分のおかげ」と思って生活すると、心が軽くなるものです。
生きていると、「生きづらいな」と思うときや行き詰まることがあると思います。そういう時はたいてい、自分が自分の可能性を信じられていません。これは年齢に関係なく、自分の可能性を信じたときが停滞を破る成長のとき。何歳になっても、自分の可能性を感じたら、ちゃんと信じてあげましょう。
ネガティブになっていると「人生いつまで頑張り続けなければならないのか」と思うことがあります。しんどいなあと思いながら生きている人は多いでしょうが、その答えは「死ぬまで」です。だからこそ、生きるためのペース配分が重要。手を抜くところや休み時間を間違えると死ぬまで頑張れなくなってしまうので、きちんと自分を観察しながら、逃げられるときには逃げて、生きていくことが大切なのです。
ポプラ社のコメント
著者の小池一夫さんは今年の4月に亡くなられました。そして本書は、小池さんの最後の著作です。
漫画『子連れ狼』の原作者として有名な小池さんですが、近年はTwitter(@koikekazuo)が人気で、本書も日々のつぶやきをもとに構成されています。
タイトルの通り、「逃げてもいい」という選択肢を自分の中に持つことの大切さを小池さんは発信続けてきました。「悪意を無視する」「一人でなんとかしようと思わない」「すべて完璧にやろうとしない」「壊れる前に、すぐに逃げる」……どうしようもない困難に直面したとき、“救い”となる言葉が並びます。
悩みや迷いは人それぞれです。しかし、小池さんのシンプルで人間の本質を突く言葉は、どんな境遇の人にも光を与えてくれます。ただの甘い無責任な言葉ではなく、ときに厳しくも新たな気づきを与えてくれる“つぶやき”が多くの人の心をつかみます。小池さんが遺した最後の想いが、きっとこれからを生きる多くの人の支えになるはずです。
構成・文:吉成早紀
編集:アプリオ編集部