ブロックチェーンの活用で観光地や商店街をサポート──富士通総研の導入事例

ブロックチェーンの活用で観光地や商店街をサポート──富士通総研の導入事例

2019年7月4日、港区が主催する「インバウンド観光×先端テクノロジーが拓く新ビジネス創出セミナー2019」が、みなとパーク芝浦で開催された。本セミナーは、キャッシュレス決済やAI、ブロックチェーンなどの先端技術を活用したインバウンド観光活性化の取り組みを紹介することで企業・団体同士の連携を促し、新ビジネスを創出することを目的として開催された。

今回は講演の中から、株式会社富士通総研の松本泰明氏が登壇した「ブロックチェーンを活用した観光地や商店街の支援」の導入事例を紹介する。富士通総研は、観光地や商店街などの地域でおこなう観光地巡りやイベントにブロックチェーンの技術を活用している。参加者の行動パターンや利用状況などのデータを効率よく収集・共有することで、集客力の向上や購買意欲の増進につながる戦略を立案できると松本氏は話す。

紙のスタンプラリーで感じた課題

ブロックチェーンを活用したイベントや地域電子通貨の発行など、インバウンド観光や地域活性化に関するさまざまな施策を行なっている富士通総研だが、スタート時はアナログな手段で取り組んでいたという。

2015年には、千葉市を舞台とした外国人にも人気があるアニメ「やはり俺の青春ラブコメは間違っている。」を活用して、市内の企業や自治体と連携した各種イベントを開催。例えば、地域5つの商店街が参加したスタンプラリーを実施。さらに、アニメとコラボしたグッズや作中で登場した再現デザートなどを販売し、商店街への集客を促した。

また、千葉モノレールでは、ラッピング列車の運行や声優による車内アナウンス、限定グッズの販売などを企画。同アニメは、もともと東アジアでの人気が高く、イベント開催時には台湾からの団体観光客が訪れたという。また、千葉ロッテマリーンズとのアニメコラボ試合では、声優の始球式や企画チケットなどを発売。用意していた1000席は、発売後即完売した。

このようにイベント開催時は多くの人が集まるものの、松本氏は課題も感じていたという。「一定の集客効果はありましたが、結局どんな属性の人が来て、域内でどんな動きをしたかわからないという問題が残りました」(松本氏)。

多くの観光客が来ても、年齢層や性別、移動ルート、買い物をしたタイミングなど、訪れた人の情報がわからないと、次につながる効果的な施策が打ちにくい。そこで松本氏は、情報収集・共有におけるIT化の必要性を感じ、ブロックチェーンを活用した環境を整備したという。

ブロックチェーン 富士通総研

地域を舞台にしたアニメとのコラボをすることにより一定の集客効果はあったが、課題も感じていたという

ブロックチェーンを用いたスタンプラリーで効率的にデータを収集

最初は、2016年からスタンプラリーのイベント管理に、ブロックチェーンを取り入れた。ブロックチェーンで管理する理由やメリットについて松本氏は次のように話す。

「ブロックチェーンは、複数のマシンで同じデータを共有できる分散環境を構築します。ブロックチェーンの仕組みは、ビットコインなどの仮想通貨で使われていることで有名です。仮想通貨の管理は、世界中に散らばっている無数のマシンが同じ取引データを共有することで実現していますが、地域で運用する場合も、同じ仕組みを利用できると思いました。参加したい自治体や企業、商店街などが同じデータを持っていれば、どこか一台マシンが壊れてもすぐに同期できて引き継ぎも簡単です。例えば、今年参加した千葉ロッテが来年は不参加でデータベースの運用をやめたとしても、地域としては誰かしらが最新の情報を引き継いでいくことができます」(松本氏)。

各自治体や商店街の店から集まった動線情報を蓄積することができれば、情報に基づいた分析や効果的な施策を打つことができる。新しく始めたスタンプラリーイベントでは、チェックポイントにキャラクターの等身大パネルを設置。参加者は紙の台紙にスタンプを押すのではなく、パネルに貼られたQRコードを読み取ってスマホ上でスタンプを貯ためていく。これにより、チェックポイントを訪れた順番や時刻、ユーザー情報などを収集することができる。また、紙のスタンプと違って、繰り返しQRコードを読み取ることにより、同じスタンプを複数枚貯めることもできる。イベントでは、集めたスタンプの数に応じて、キャラクター人気投票やプレゼント応募ができるようにしたという。

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スタンプラリーをデジタル化してスマホ上でおこなうことにより、多くの情報を収集できる

集めた情報からは、どのルートで回る利用者が多いかや、特定の2箇所を何度も往復するユーザーがいるなど、参加者が当日どのように動いたかを把握できる。それにより、集客アップにつながる最適なコースの見直しに役立てられるのだ。他にも、バレーボールのVリーグでは、試合会場へ行くたびに選手の画像が手に入り選手図鑑となるだけでなく、オールスターの投票権やVIP席に座れるプレゼントの応募券としても、活用しているという。

ブロックチェーン 富士通総研

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山梨で行われたスタンプラリーの分析事例。ユーザーがどの順番でチェックポイントを通ったかも把握できる

電子通貨に画像や動画情報を付与して金額以外の価値を持たせる

地域活性化イベントにブロックチェーンを導入して実績を得た富士通総研では、2018年から地域電子通貨の実証実験にも取り組んでいる。

松本氏は、電子通貨になると、金額以外にもさまざまな情報が付与できると話す。「電子マネーでは、取り扱われる情報が数字だけになってしまいましたが、本来現金には福沢諭吉などが描かれています。お金がデジタル化してもビジュアルは残したほうが、地域の観光資源として活用できるのではないかと考えました」(松本氏)。

川崎フロンターレの協力でおこなった実証実験では、1万円玉や5000円玉、1000円玉などの電子通貨に写真データを付与した。その上で、1万円玉には選手のサイン入り写真、5000円玉には私服姿の選手、1000円玉にはユニフォーム姿の選手とレア度を分けることで、ファンにとっては電子通貨を手に入れる動機になり保有期間も長くなる。また、全選手をコンプリートすれば特典を受けられるなど、スタンプラリー的な要素も持たせられる。もちろんサッカーチームだけでなく、商店街の一店舗でも広告がわりに情報を付与することで、集客につなげたり、オリジナルの特典をつけたりすることができる。

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電子通貨に画像をつけてレアリティを持たせることもできる。集めたコインに応じて特典をつけることも可能だ

また、レア度が高いコインを域内で流通させることにより、消費の活性化にも繋がると松本氏は話す。「ブロックチェーンで蓄積された地域通貨の取引記録をオープンにすれば、どの店に何のコインがあるか把握できます。『あの店で買い物をすれば、お釣りでレア度の高いコインがもらえるかもしれない』といった期待による消費を促せるなど、ポケモンGOのような価値観も生まれるのではないかと思います」(松本氏)。

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特定の機能を付与した電子通貨は、インバウンド観光向けにも有効だ

もちろんこれらの施策は、日本に訪れる観光客に対しても有効だ。観光情報を付与したり、一定の確率でレアな体験や特典が受けられる電子通貨を利用してもらえば、域内での消費が促される。また、電子通貨は一定期間を過ぎたら金銭的な価値が失効する仕組みにしておけば、未使用分は利益として関係者で分配することも可能だという。

お金がデジタルで取り扱われることにより、アイデア次第でさまざまな地域オリジナルの施策を講じられそうだ。

構成・文:藤原達矢
編集:アプリオ編集部