なぜLINEの未来はヤバいのか? 破壊と創造の世界ナンバーワン戦略を読み解く3つのキーワード

2014-02-27 22:36

LINE 出澤氏

昨日、LINEが新サービス発表会で明らかにした3サービス(LINE電話LINE ビジネスコネクトLINE クリエイターズマーケット)が、各方面から大きな話題を呼んでいる。各方面とは、テレビ・新聞を中心としたマスメディア、広告・マーケティング・ビジネス全般に関心が高いユーザ層、そして漫画・アニメなどのコンテンツに興味があるユーザたちだ。

なぜ、人々はLINEの新展開について話題にするのか。そして、LINEは、この先"何に"なろうとしているのか。LINEの未来が「ヤバい」理由はどこにあるのか。次の3つのキーワードから読み解きたいと思う。

  1. BEYOND LINE(LINEはLINEを超える)
  2. Replace(リプレイス、置換)
  3. No.1 Closed Platform(世界No.1)

BEYOND LINE(LINEはLINEを超える)

BEYOND LINE

今回の発表会のテーマは「BEYOND LINE」(LINEはLINEを超える)だった。

発表会冒頭で出澤COOは「(今回発表した新サービスは)グローバルプラットフォーム化のための挑戦だ。成功していることを崩してでも進化することが必要かもしれない」と発言し、戦略担当の舛田執行役員も「世界ナンバーワンを目指すために枠を超える」と宣言した。

「LINEがLINEを超える」とは

LINEがLINEを超えるということは具体的に何を意味するのか。

元々、LINEはユーザ同士のメッセンジャー・無料通話アプリとして利用者数を拡大してきた。

普通の人々の生活は、オープンであることの方が稀だろう。人生の大半は、その人にしか分からない閉じた(Closed、クローズド)ものだ。近しい人とのコミュニケーション、そこを占領したのがLINEだった。

しかし、LINEは一般ユーザ間のコミュニケーションプラットフォームとしてスタートしたものの、次第に企業・団体・有名人・公共機関などが公式アカウントまたはLINE@として「ユーザ」の範疇に含まれるようになった。また、本質的にはコミュニケーションアプリとは呼べないであろうゲームアプリやツール系アプリもLINEファミリーアプリとして多数リリースしてきた。

では、LINEはコミュニケーションプラットフォームではなくなったのかと言うと、そうではないだろう。むしろ、コミュニケーションを強化する方向で一貫している。

なぜなら、公式アカウントやLINE@のような非個人のユーザからメッセージを受け取ったり、ゲームアプリ内で友だちと競いあったりすることも、「コミュニケーション」の範囲から逸脱するものではないからだ。

LINEスタンプ

この「コミュニケーション」の意義には、LINEという「メッセンジャーアプリ」から想起されるメッセージとスタンプのやり取りだけに留まらない発展性が含まれていることは明らかだ。一方で、「知覚や感情、思考の伝達」という「コミュニケーション」の定義から外れず、かつ、LINEの最も基礎的な存在価値である「メッセンジャーアプリ」という枠に留まる限り、それは相変わらずLINEであり続けるはずだ。

つまり、これからLINEが成り上がろうとしているサービスは、誰かと誰かとの媒介という意味での「コミュニケーション・プラットフォーム」として捉えるべきで、いわゆるメッセンジャーアプリ+αとしての意味で捉えると本当の姿は見えてこないと言えるだろう。

「BEYOND LINE」の指す変化は、「リプレイス」で表せる

そうすると、「BEYOND LINE」(LINEがLINEを超える)とは、どのような変化を指すのだろうか?

筆者は、その変化をReplace(リプレイス、置換)というキーワードで表現したいと思う。「リプレイス」は、クローズド性を維持しながら、LINEが開放的なインフラサービスに進化していくという、一見矛盾するような展開を示すものだと考えておいてほしい。

Replace(リプレイス、置換)

LINE 新サービス

アプリケーションレイヤーの占領へ

言葉の使い方は技術的に不正確だが、端的に言うと、「リプレイス」とはLINEがアプリケーションレイヤーを乗っ取ってしまうことを意味している。言い換えれば、LINEは、スマートフォンやタブレットのホーム画面にはLINEアプリがありさえすれば良いという状態に近づけることを、半ば本気で目指している。

もちろん、これは極論で、全てをリプレイスすることは不可能だろうし、LINEが現実的に望むことでもないだろう。だが、星屑のごとく多種・大量にあるアプリ・サービス群を駆逐し、ホーム画面という領地の大半を機能的な意味で占領してしまおうとしていることに変わりはないと思われる。

この発想は、端末というハードウェアレイヤー、Android OSやiOSというOSレイヤー、ネットワークやキャリアといったレイヤーなどの上に、LINEサービスというレイヤーを敷いてしまおうというものだ。

このことは、今回発表された3サービスのうち、特に「LINE電話」と「LINE ビジネスコネクト」に如実に現れていると感じた(既に、LINE GamesやLINE Musicに、リプレイスの萌芽がみられていたが)。

LINE電話(LINE Call)

LINE電話

LINE電話をテレビ・新聞はどう報じたか

「LINE電話(LINE Call)」とは、LINEが提供する予定のIP電話サービス。料金体系と潜在ユーザ数の多さから、テレビを中心に大きく取り上げられた。例えば、テレ東の報道番組「ワールドビジネスサテライト」(WBS)では、LINE電話を中心にした構成で報道され、クリエイターズマーケットは小さい扱い、ビジネスコネクトに至っては1秒も取り上げられなかった。

ビジネス系ニュース番組であるWBSでLINE電話が中心に報道されたのは、通信キャリアやIP電話サービス事業者との競争に注目したためだろう(ちなみに、本日付の日経新聞朝刊で紙面に割かれたのはLINE電話のみ)。

LINE電話

中高年層・ガラケー層の大移動が始まる?

WBSの報道を見て、筆者はあるひとつの感想を抱いた──WBS視聴者のメイン層である中高年層(しかもガラケーユーザが多い層)に向けてLINE電話に関する情報がどのように届いただろうか、と。

LINEは、すでに若年層には相当浸透したサービスとなったが、いまだ中高年層には浸透したとは言えない。だが、LINE電話の登場によって、中高年層がスマホユーザになりLINEを利用するようになる状況が発生するのではないかと予想する。

筆者が、しばしば耳にするのは、父親や母親にLINEを使ってほしいのに、頼んでもなかなか首を縦に振らないという話だ。このような場合、周囲からLINEを使ってほしいと頼まれる圧力に、業界最低価格の通話料によって電話料金を削減するというLINE利用へのインセンティブが加われば、スマホとLINEへの中高年大移動が発生したとしても不思議ではないだろう。少なくとも、LINEユーザである子どもたちからすれば、説得のための大きな材料になる。

LINE 舛田氏

通信キャリアをリプレイスする

結果、何が起きるか。舛田氏が「(LINEは)従来の携帯電話の通話機能、メール機能をリプレイスしてきた」と語ったように、中高年層とガラケー層を中心にさらなるリプレイスが起きるはずだ。

通話機能やメール機能のリプレイスは、すなわち通信キャリアに対するリプレイスを意味する。いわゆるキャリアの土管化が、さらに加速することになるかもしれないのだ。

出澤COOによって完全否定されたものの、ソフトバンクがLINEの株式取得を目指すという報道に、少なからず現実味があるのも納得だろう。

LINE ビジネスコネクト

LINE ビジネスコネクト

LINE ビジネスコネクトとは

「LINE ビジネスコネクト」とは、公式アカウントの各種機能を企業向けにAPIで提供し、各企業がカスタマイズして活用できるサービス。個人的には各産業に与える影響がもっとも大きいサービスだと睨んでいる。

このAPI提供によって、従来の公式アカウントによる一方通行のメッセージ配信だけではなく、企業側が持つデータベースを利用することで特定のユーザに対してより最適化されたメッセージを送信することが可能となる。また、企業内の社内インフラや業務ソリューションへの活用も見込む。

■例として挙げられたのは以下のような利用方法

  • メニュースタンプを押すだけで、LINEでピザの注文
  • レンタルショップからの返却通知
  • 位置情報を送付するだけで、近くにいるタクシーを配車
  • アルバイトのシフト募集、業務リマインド
  • TV番組と連携した視聴者参加型企画も(TBS、テレ東、フジ、日テレと提携へ)

LINE、企業向けにAPIを提供へ

LINE ビジネスコネクト

この「LINE ビジネスコネクト」は直接的には企業向けのサービスだが、以上の例を見れば分かるとおり一般ユーザのLINE利用にも相当な影響を及ぼすことが分かると思う。また、すでに在京4キー局と提携しており、テレビのソーシャル化が本格化するものと思われる。

LINE ビジネスコネクト

当面はナショナルクライアントを中心とした企業群がビジネスコネクトを利用することになるだろうが、利用料金次第では中小規模の企業などでも活用が進むかもしれない(料金は月額基本料金と従量課金のハイブリッド方式を考えているとのこと)。

マーケティングサービスをリプレイスする

LINE株式会社の田端執行役員は発表の中で、Eメールマーケティングと新聞折込チラシの衰退を、企業などの公式アカウント成功の背景として紹介した。

LINE 田端氏

90%は開封されることのないというEメールマーケティングが終焉の時を迎えつつあるのは、マーケティング業界では既知の現実だ。反面、公式アカウントの実績は強烈。メッセージの開封率は55.8%、クーポン利用率は31.6%だという。

ビジネスコネクトは、この「公式アカウントの発展形」(田端氏)だ。公式アカウントは一方通行のコミュニケーションツールだったが、ビジネスコネクトは「人と企業がより深い絆」(LINE)でつながることを可能とする。

LINE公式アカウント

このビジネスコネクトは何をリプレイスするものなのか、明らかすぎるほどに明らかだ。それは、前述のようなEメールマーケティングだけに留まらず、オフラインのダイレクトメールや折り込みチラシなどもリプレイスされるだろう。そして、各企業が個別に制作してきたプロモーションアプリや自社サービス用のアプリなども対象となっていくはずだ。

アプリを用意し、商品などのプロモーションを実施したり自社サービスを利用してもらったりするためには、大前提としてアプリの企画・製作・公開とともに顧客にアプリをインストールしてもらう必要があった。そのような状況のもと、たくさんのアプリが思うようにインストール数を伸ばせず、費用対効果の面では失敗の烙印を押されても仕方のない事例を、筆者は多数見てきた。

そのような失敗を経験した企業にとっては、ビジネスコネクトはまさに渡りに船の存在に違いない。

さらに、成功の部類に分類されるアプリであっても、LINEをアプリ内で活用すればさらに大きな成功を収めることができる。したがって、各企業がリリースしているアプリに、LINEのAPIが組み込まれることになるミライが現実になり、新たなエコシステムが創造されることを予言しておきたい。もし、API組み込みが現実のものとなれば、LINEによるアプリケーションレイヤーの支配はより強固なものになっていくはずだからだ。

なお、LINEがサービスをインフラ化していく中で、特にビジネスコネクトに関しては「土管に徹する」(田端氏)という方針を明らかにしている。

LINE クリエイターズマーケット

LINE Creators Market

クリエイターズマーケットは新たな市場を生む

3サービスの中では、リプレイスの側面が一番弱いのが「LINE クリエイターズマーケット」。このサービスは、クリエイターが自作のLINEスタンプを全世界のLINEユーザに向けて販売することができるプラットフォームだ。

多数の実力あるイラストレーターらが自作スタンプを登録・販売する流れができることは間違いない。作品の発表の場として機能するため、部分的にはPixivやニコニコ静画、ブログ、SNSなどと重なる面もあるが、競合するというよりは相乗効果の大きさの方に注目すべきだろう。雑誌、書籍などとイラストレーターらを取り合うという展開にもならないはず。

新たな市場を創造したと評価すべきだ。

LINE Creators Market

リプレイスするケースとして考えられるのは、画像として非公式スタンプを提供している企業・個人のアプリが意味を失うことだが、この点に関しても自作スタンプとして改めて提供すれば良いわけで影響は小さい。

むしろ、クリエイターズマーケットは、個性を出したくてしかたのない若年層を中心とした既存ユーザのコミュニケーション活性化に資することを目的とした施策だと思われる。

No.1 Closed Platform(世界No.1)

ここまで、「BEYOND LINE」というキーワードが示すLINEの変化について、「リプレイス」が鍵になることを説明してきた。LINEが次々に他のアプリやサービスを「リプレイス」していくことでアプリケーションレイヤーを占領し、巨大なインフラと化す未来がイメージできただろうか?

この野望は、その輪郭はおぼろげながらもLINE経営陣によって宣言されていると、筆者は考えている。

これまでにも「世界ナンバーワンを目指す」という趣旨の発言がなされてきたし、今回の発表会においても「グローバルプラットフォーム化のための挑戦」(出澤氏)や「世界ナンバーワンを目指すために枠を超える」(舛田氏)との発言があった。

それらを踏まえて、サービスの動向を注視してきた身としては、LINEの未来の「ヤバさ」を実感せざるを得ない。LINEがリプレイスによってモバイルコミュニケーションのコアを手中に収めていくことで、LINEサービスの質的な転換がおこなわれるのではないか。出澤氏が今後の方向性について「成功していることを崩してでも進化することが必要かもしれない」と語った裏に隠された「ヤバさ」は、このような文脈で読み解く必要があると考えている。

LINEはクローズドプラットフォームにおけるGoogleになれるか?

そこで、ふとインターネットの巨人Googleとの類似点と相違点について考えさせられた。

Googleは、世界最強の検索サービスと検索連動型広告による莫大な収益によって、何を成し遂げてきたか。Google検索結果に表示されなければ(もしくは検索順位が低ければ)インターネット上に存在しないものと同じだとさえ指摘されるまでになった。必要不可欠なインフラとなったのだ。そして、その過程で広告収入は増加する一方となった。

そして、世界最高クラスの英知を結集したGoogleは、その権力と資金力で文字通りさまざまな競合サービスをなぎ倒していった。

Google ラリー・ペイジ セルゲイ・ブリン

LINEはどうか。すでに国内で5,000万人を超えるユーザを獲得し、モバイルコミュニケーションにおいて必要不可欠なインフラとなりつつある。収益も順調に増加している。

そして、抜群の戦略性と先見性とセンスとしたたかさで、他サービスをリプレイスしていこうとしている。

Googleと比べるには値しないと思われるかもしれない。だが、LINEのサービスそのものは開始して3年に満たない。Googleの場合、1997年に検索エンジンを創りだしてからYahoo!のデフォルト検索エンジンに採用され、検索連動型広告Google AdWordsを開始するまでに要した期間は丸3年ほどだった。Googleと比較するだけのサービスなのか否かの判断を下すには、まだ少しの猶予があっても良いだろう。

GoogleとLINEが明確に異なるのは、活躍の舞台だ。Googleはインターネットというオープンプラットフォームの皇帝となったが、LINEはモバイルにおけるクローズドプラットフォームで世界制覇を目指している。もしかすると、LINEが競合のコミュニケーションアプリをなぎ倒し、その他のクローズドプラットフォームを破壊する時代がやってくるかもしれない。それが無理だったとしても日本を始めとする地域で王者となる可能性を算段しておいてもバチは当たらないだろう。

LINEが勢力を拡大しはじめてから今日まで、LINE否定派の声は小さくなかった。だが、逆に言えば、それだけの可能性を有したサービスだからこそ否定の声が目立つのだろう。

さて、皆さんはLINEの今後の可能性をどう占うだろうか?