LINE NEWSに誤情報、Dropboxの著作権侵害ファイル削除問題で

2014-04-03 22:17

Dropboxはどうやって著作権侵害ファイルを特定しているの?

初稿では、Dropboxの利用規約等で著作権侵害コンテンツ削除の可能性に関する記載がある点について説明していませんでした。また、初稿には、一部あいまいな表現がありました。訂正させていただきます。初稿本文中に追記した箇所は赤字で示すとともに、記事の最後で大幅に追記いたしました。

本日15時16分に「LINE NEWS」において、「Dropboxはどうやって著作権侵害ファイルを特定しているの?」と題するニュースが配信され、筆者の目に止まった。

そして、このニュースが誤報となってしまっていることに気が付いた。Dropboxの非公開フォルダの中の著作権侵害ファイルを削除できることが明らかに」と報じているが、これは誤りだ。

当該ニュースは、次のように報じていたが、誤りを含んでいる。

先日、Dropboxの非公開フォルダの中の著作権侵害ファイルを削除できることが明らかになりましたが、Dropboxはどうやって著作権侵害ファイルを特定しているのでしょうか。

実はこのファイル削除、Dropboxが2年前から使っていたソフトウェアにより自動で実行されたもの。「ファイルのハッシュ値をブラックリストと照合」する技術を導入しているとのことです。

この点、先日明らかになったのは、非公開フォルダの中の著作権侵害ファイルを自動で削除できることではなく、著作権侵害ファイルの共有リンクを自動で無効化しているということだ。規約ではファイルの削除について言及されているものの、それと今回のリンク無効化は別の話だ。

だが、引用されたテクノロジー情報ブログ「ギズモード・ジャパン」の記事に事実誤認が存在したため、結果としてDropbox社のサービス実態が誤解されてしまう危険性が非常に高い形で引用・要約されている。

LINE NEWS

このニュースの中で、当サイト「Appllio(アプリオ)」の記事も引用されている。当サイトの記事には事実誤認はないと考えるものの、LINE NEWSの引用元の1つとして取り上げられているため、読者の皆様にあらためて正確な情報を提示したい。

前提

LINE NEWSは、株式会社LINEが運営するニュースアプリ。編集部が存在するものの、独自に記事を執筆するのではなく、他のニュースサイトから複数の引用(抜粋による引用・要約による引用)をおこない、引用をまとめることで1つのニュース記事を制作し、配信するサービスだ。引用部分では、元記事を要約したり文体を整えるため、改変をおこなうことがある。

上記ニュース「Dropboxはどうやって著作権侵害ファイルを特定しているの?」では、次の2記事から引用し、3つの要約文が掲載された。ニュースタイトルは「ギズモード・ジャパン」の記事タイトルをそのまま流用している。

「ギズモード・ジャパン」からの記事引用

ギズモード・ジャパン

記事「Dropboxはどうやって著作権侵害ファイルを特定しているの?」(魚拓)から2箇所を引用・要約。

当サイトからの記事引用

アプリオ

記事「Dropbox炎上? 非公開ファイルが著作権法違反で削除されたと話題に」から1箇所を引用・要約。

LINE NEWSと引用元の記事を比較

以下、両サイトから引用されたと思われる部分を、LINE NEWSの要約文と比較する。引用されたと思われる部分が多少長文になってしまっているが、筆者の作為をできるだけ排除するため、このような形式を採用した。

また、理解を正確にするためにも、両サイトの元記事を一読していただきたい。

LINE NEWS「Dropboxはどうやって著作権侵害ファイルを特定しているの?」

ギズモード・ジャパン(1)

LINE NEWS:先日、Dropboxの非公開フォルダの中の著作権侵害ファイルを削除できることが明らかになりましたが、Dropboxはどうやって著作権侵害ファイルを特定しているのでしょうか。

ギズモード・ジャパン:先週末の騒ぎで、Dropboxが非公開フォルダの中の著作権侵害ファイルを削除できることを初めて知った方もいるかもしれません。またDropboxに非公開ファイルの中身を閲覧されているのでは心配になった方もいるかもしれませんね。でもファイルの中身は見られていないのでご安心を。実はDropboxは何年も前から、ファイルの中身を見ないで著作権侵害ファイルを削除できる対策を導入していたんです。

アプリオ(1)

LINE NEWS:先日、ある海外ユーザーが「非公開フォルダでデジタルミレニアム著作権法違反の削除…はじめて見た」とツイート。リツイートが3,500件におよび、大きな話題を呼んでいました。

アプリオ:「非公開フォルダでデジタルミレニアム著作権法違反の削除…初めて見た」昨日、オンラインストレージサービス大手であるDropboxが、ひとつのツイートを火元にネット上で"炎上"しかけた。いわく、ユーザだけが閲覧・管理できるはずの非公開フォルダ内のファイルが削除された、というのだ。簡単な経緯はこうだ。まず、@darrellwhitelaw が、Dropbox上の非公開フォルダに保存しているMP4動画ファイルを知人に共有しようと試み、共有リンクをメッセンジャーで送信した(非公開フォルダ内のファイルでも、リンクを知るユーザへは共有可能)。次に、共有リンクを受信した知人がリンクをクリックし、Dropbox.comを開いた。すると、"Certain files in this folder can't be shared due to a takedown request in accordance with the DMCA.(このフォルダ内の特定のファイルは、DMCA[デジタルミレニアム著作権法]に基づく削除要求により共有することはできません)"との警告メッセージが表示され、ファイルをコピーないしダウンロードすることができなかった。そこで、その状況を撮ったスクリーンショットを @darrellwhitelaw がツイートしたところ、リツイートが3,000件を超えてしまった──これが、大まかな流れだ。

ギズモード・ジャパン(2)

LINE NEWS:実はこのファイル削除、Dropboxが2年前から使っていたソフトウェアにより自動で実行されたもの。「ファイルのハッシュ値をブラックリストと照合」する技術を導入しているとのことです。

ギズモード・ジャパン:でもこのファイルの削除、実はDropboxが2年前から使っていたソフトウェアにより自動で実行されたもので、Dropboxがファイルを閲覧していたわけではありませんでした。Dropboxは「ファイルのハッシュ値をブラックリストと照合」する技術を使って、あらかじめ指定されたファイルが、Dropboxのサーバーを使って共有されるのを防いでいます。

ギズモード・ジャパンが事実を誤認している点

では、ギズモード・ジャパンが、何を誤っているのか。

それは、冒頭で触れたとおり、今回の事例においてDropboxが非公開フォルダ内の著作権侵害ファイルを削除していると認識している点だ。

  • 「先週末の騒ぎで、Dropboxが非公開フォルダの中の著作権侵害ファイルを削除できることを初めて知った方もいるかもしれません。」
  • 「実はDropboxは何年も前から、ファイルの中身を見ないで著作権侵害ファイルを削除できる対策を導入していたんです。」
  • 「でもこのファイルの削除、実はDropboxが2年前から使っていたソフトウェアにより自動で実行されたもので、Dropboxがファイルを閲覧していたわけではありませんでした。」

このような記載から、今回の事例においてDropboxは非公開フォルダ内のファイルを自動的に削除していると、ギズモード・ジャパンが認識していることは間違いないだろう。

しかし、今回の事例においてDropboxは著作権侵害ファイルを削除していない。特定のファイルが著作権を侵害しているとの通知を受けた場合に、Dropboxは当該ファイルを他者に共有しようとするリンクを無効にしているに過ぎない。そして、著作権侵害通知があったファイルか否かを判断するため、ハッシュ値を比較する処理をおこなっている。これが、Dropbox側の見解だ。

たしかに、スクリーンショットだけを一見すると、共有しようとしたファイルが削除されてしまったかのような印象を受けるかもしれない。非公開フォルダ内の元ファイルが削除されたとしたら一大事だ。しかも、Dropboxが非公開フォルダ内のファイルをチェックし削除しているとすれば、プライバシーの観点から大問題となる。

しかし、@darrellwhitelaw によれば、ファイルは削除されておらず、単に共有リンクが無効になっているだけだという。大量のリツイートを招いた要因は、画像のインパクトの大きさとツイートの曖昧さだったものと思われる。
Dropbox炎上? 非公開ファイルが著作権法違反で削除されたと話題に - アプリオ

大量のリツイートを招いたのは、以下のツイートだ。

たしかに、このツイートと画像を見ると、周囲が勘違いしてしまうのも致し方のないことかもしれない。パーソナルフォルダー(非公開フォルダ)内でDMCA(デジタルミレニアム著作権法)に基づく削除が実行されたように思えてしまうからだ。

だが実際には、このツイートのあとにツイート主が述べていたように、共有リンクが無効にされただけで元ファイルは削除されていない。どのようなファイルを共有しようとしたのかは不明だが、著作権保護の対象となるファイルをDropbox内に保存したからといって、削除されることは考えづらい。私的な利用の範囲内だと思われるためだ。現に、筆者の知る限りでは、非公開フォルダ内のファイルが自動で削除されたというケースが発生していると報じられたことはない。

プライバシーに配慮した方法を採っているかどうかに関わらず、Dropbox側が「非公開フォルダ」内に「ユーザが所有するファイル」を「勝手に自動で削除」したとすれば、由々しき問題だ法律または利用規約で許されているとしても問題になりえるだろう。

この点、アメリカの大手テックメディアであるTechCrunchやArs Technicaが、今回話題となったツイートの誤解を解くためだと思われる記事を掲載している。

アプリオでは、今回の誤解にまみれた騒動を国内で早期(3月31日)に報じたが、少し書き方が難解だったためか、さまざまな読者を誤解させてしまったかもしれない。

ニュース要約の難しさ──誤報の原因はどこに

LINE NEWSのようにニュースを要約するという営みは、実は非常に難易度が高い編集作業だ。言葉選びや少ない時間での検証が難しいので、誤解が生まれてしまうという課題があるだろう。

また、誤報となってしまったギズモード・ジャパンの記事を個人的に検証したが、おそらく米Gizmodoの元記事を翻訳する際に、日本語で書かれた記事を理解不十分のまま参考にしたことが要因ではないかと思われる。ここでは検証の内容は省略するが、気になる読者は自らの目で確かめてみるとよいだろう。

誤報はなぜ発生してしまうのか。残念だが、少しでも速く手軽に書くことが主流となっているWebメディア業界においては、特に考えておくべき問題だろう。Dropbox社にとっては非常に大きな問題だろうが、今回はDropbox1社の問題に留まった。しかし、これがより広範囲に影響する政治や経済ニュースだったらと思うと、ニュースメディアの現状に危惧すべき点は少なくない。

手軽にインスタントに情報を発信できる現在だからこそ、情報の正確性を大事にしていく必要性を感じるばかりだ。

追記:2014年4月4日

利用規約

著作権侵害コンテンツの取り扱い権限について、Dropbox社は次のように利用規約に記載している。

Dropbox は、著作権を侵害しているコンテンツを削除または無効化し、反復的な著作権侵害者の利用を停止する権限を有します。
Dropbox 利用規約

したがって、著作権侵害ファイルそのものが「削除」されることはありえる。しかし、実際に削除されたケースがあったということを、筆者は耳にしたことはない。

DMCAに関するポリシー

デジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づく措置について、Dropbox社は以下のように説明している。

以下で説明されている通り、当社は本通知を 受け付けた後、自由裁量により、本ウェブサイトの当該コンテンツの削除を含む適切な措置を講じます。

DMCA の侵害申し立て通知(以下「本通知」とする)
(中略)
2. 侵害を申し立てる(または侵害行為の対象となる)データまたはリンクを特定します。当該コンテンツへのアクセスを無効にするには、少なくとも本ウェブサイトに掲載されているリンクの URL または当該データが掲載されている場所が必要になります(該当する場合)。
当社の DMCA に関するポリシー

ここでも「削除」という文言が登場するが、著作権者などが申し立てる「DMCA の侵害申し立て通知」内では「アクセスの無効」と表現している。また、「少なくとも本ウェブサイトに掲載されているリンクの URL または当該データが掲載されている場所が必要になります(該当する場合)。」との表現からは、著作権侵害ファイルが公開状態になっているか、著作権者などが著作権侵害ファイルへのリンクURL、掲載場所を認識している場合にのみ、侵害申し立て通知が可能となるようだ。

これらのことから、仮に著作権侵害ファイルを「削除」することがあったとしても、当該ファイルがDropbox上で公開されている場合がほとんどであると考えられる。

ヘルプセンター

ヘルプセンターの「ファイルが見つからない場合の検索方法について」のページでは、「ファイルを自動的に削除することは決してありません」と説明されている。

Dropbox がファイルを自動的に削除することは決してありません(ストレージが容量制限に達した場合でも同様です)。
ヘルプセンター

前掲の「利用規約」および「DMCAに関するポリシー」とは矛盾するように受け取ることができる説明だ。

ギズモード・ジャパンの説明について

ギズモード・ジャパンは、「実はこのファイル削除、Dropboxが2年前から使っていたソフトウェアにより自動で実行されたもの。」としている。これは、米Gizmodoの元記事の"But the takedown is a result of software that the cloud service has been using for at last two years."という箇所の和訳だろう。

"using for at last two years"のリンク先はテックブログ「WP Central」が2年前に掲載した記事(Dropbox reads your files...kinda)だ。

Dropbox

この記事で紹介されている事例は、今回と同様のケース。このケースは、マイクロソフトから流出した資料について、マイクロソフトがDropbox側にDMCAに基づく侵害申し立てをおこなった結果、Dropboxを通して当該資料を共有することができなかったというもの。非公開フォルダ内のファイルが削除されたという事例ではない。

また、ギズモード・ジャパンが、"the takedown"を「ファイル削除」と翻訳した点について、筆者としては理解に苦しむ。なぜならば、米Gizmodoの元記事のタイトルは"How Dropbox Knows When You're Sharing Copyrighted Files"(Dropboxが著作権保護ファイルの共有行為を知る方法[訳:筆者])であり、本文中でも一貫して共有を無効にする点にしか触れていない。

たしかに、"Takedown"をどのように訳するのかは難しいところだ。通常なら「削除」と訳する場合が多いだろうが、今回のケースでは、それを「ファイル削除」とするのか「リンク削除(無効化)」とするのか、迷うところだろう──ギズモード・ジャパンがどこかの日本語記事と本家Gizmodoだけを参考にしただけならば。

筆者としては、今回話題になったツイートとその後のツイート主 @darrellwhitelaw の発言、Dropboxの説明および2年前の事例を参照した上で、"Takedown"を「ファイル削除」ではなく「リンク無効化」と訳した。前述のとおり、今回の事例では、元ファイルは削除されていないのだ。

「ファイルはあなたのフォルダーから削除もしくは隠されたの?それとも、単にファイル共有が無効になったの?」という質問に対して、@darrellwhitelaw は「(ファイル削除ではなく)共有が無効になった」と回答している。

なぜ、ギズモード・ジャパンがファイルの削除だと誤解したのだろうか。