なぜWeb業界注目のアプリは"変節"した?──Gunosy路線転換の2つの理由を考える

Gunosy

Gunosyとは簡単に言うと「興味にそったニュースや記事をあつめてくるサイト」です

2011年10月25日のサービス立ち上げ時に、Gunosyの共同創業者であり現共同CEOである福島良典氏が宣言したGunosy(グノシー)の初期の定義だ。

ユーザの興味に合わせてパーソナライズしたニュースや記事を配信するコンセプトとサービスの質は、アーリーアダプター層の心の琴線に触れた。サービスの利用者数は順調に増加し、2013年9月には60万人を突破。広告も活用し、ダウンロード数は伸び続け、現在170万ダウンロードに達している。

そして今、iPhone向けアプリで路線転換と言っても過言ではない大幅アップデートを実施したGunosyは、「今日のニュースを3分でまとめ読み」というコピーでサービスを紹介している。App Storeでは最初に次のような説明がなされている。

◆3分で読める今日のニュースをあなたにお届け◆
「エンタメ」「スポーツ」「社会」「経済」など、幅広い分野の旬のトピックがまとめて読める。iPhoneニュースアプリの決定版!!
興味にあった話題が読める朝刊・夕刊はそのままに、より多くのニュースをお届けいたします

ところが、これまでGunosyを愛用してきたユーザからは不評を買っているのが現実だ。App Storeでの平均評価は3月8日時点で星2.5。Twitterなどでも、アップデート時から批判の声が散見された。

いったい何が変わったのか?

そして、なぜ路線転換したのか?

Gunosyは何が変わった?

先月末のアップデートでGunosyは、一見する限りではほとんど別アプリのようになった。一般ニュースを配信するカテゴリを多数追加し、UIもSmartNewsを想起させるものになっている。メディアごとのチャンネル購読機能が登場し、SNS的要素であった「周りで話題」のカテゴリは消滅した。

従来、朝刊・夕刊としてパーソナライズしたニュースや記事を中心に配信してきたGunosyだが、その朝刊・夕刊が埋もれてしまうほどに多数の一般ニュースカテゴリが配置されたのだ。

グノシーとSmartNews

Gunosyが大幅アップデートでほぼ別アプリに──ネット上では「見た目も中身もSmartNewsみたい」との声も

福島氏は、ちょうど昨晩掲載されたライフハッカーの記事中で次のように新しいGunosyを表現している。

ニュースを読む際、グノシー以外のニュースアプリを併用されている方が多かったので、『いくつものアプリを行き来せずに、グノシー1つで済んでしまう』、そんな状況を作り出せればと考えました。
『Gunosy(グノシー)』が大幅アップデート! CEO福島氏が語るキュレーションサービス最前線 - lifehacker.jp

Gunosyが路線転換した理由

この路線転換は、大きな博打だ。余程のことが無ければ、ここまでの変更を加えることはないのではないか。

では、その路線転換の理由は何なのだろうか。筆者が想像した、2つの理由を挙げてみたい。

理由1. 声なき多数派に使ってもらうため

まず、考えられる理由として、声なき多数派にGunosyを使ってもらうためというものが考えられる。

つまり、一般ニュースを中心に配信し、ユーザの行動(ニュースリンクのクリックなど)を計測し興味を分析することで、TwitterやFacebookで積極的に情報発信をするわけではない声なき多数派に対して情報をレコメンドするためなのではないかということだ。これまでGunosyが朝刊・夕刊などでおこなってきたことを、追加された多数の一般ニュースカテゴリでも取り入れていると考えるのは妥当だろう。

例えば、Amazonのレコメンドエンジンを思い浮かべてほしい。Amazonで何を買いたいか、Twitterで発言する人は少数派で、ほとんどの人はこっそり商品ページへのリンクをクリックし、黙って購入ページに進む。それらの結果に基づいて、優秀だとされるAmazonのレコメンドシステムはユーザにおすすめ商品を推薦する。そこにソーシャルアカウントは必要ない。

Gunosyも同様の手法をしているとみられ、さらにそれを強化したのかもしれない。

Gunosyのレコメンドエンジンを開発した関喜史氏は昨春、次のように述べている。

関:僕らは「普通のユーザーはFacebookとかTwitterのアカウントを持ってて、それを使うだろ」って思ってたんです。でも10万人を超えた時点で、SNSのアカウントが無い場合を考える時期にきているんです。いろんなサービスを使ってる人にとってよりよいサービスというよりは、TwitterとかFacebookを使ってないような人たちが少し我慢して使ってくれればいい情報を届けられる。こういう世界観を作るという部分に今努力していますね。
「ゲームとTwitterとFacebookしかしないなんてもったいない」、Gunosy開発チーム根掘り葉掘りインタビュー - GIGAZINE

このように、以前からソーシャルアカウントを持っていないユーザに対する情報提供に関して、どのように情報をレコメンドするかについての問題意識はあった。だからこその「SmartNews化」なのかもしれない。

今後、一般ニュース路線で先行するSmartNews並みのユーザ体験を提供することができれば、大きく化ける可能性もあるだろう(SmartNewsも、この路線を検討の俎上に載せてはいるらしい)。

理由2. 収益化のため

もうひとつ考えられる理由は、さらなる収益化を図るためというものだ。

そのためには、より多くの「普通の人」が日常的に利用するサービスでなければならない。だからこそ、一般のニュースアプリのような体裁になったのではないかと推測できる。間口を広げてユーザ数の拡大ペースを加速させる狙いがあるのではないか、ということだ。

グノシーは2014年中に1千万ユーザーの突破を目指している
『Gunosy(グノシー)』が大幅アップデート! CEO福島氏が語るキュレーションサービス最前線 - lifehacker.jp

大幅増資との関連性があるのか?

Gunosyは大幅に増資し、現在の資本金は16億円を超えている。投資家から何らかのプレッシャーが働くことは想像に難くない(もちろん、これは筆者の憶測に過ぎないわけだが)。ちなみに、個人としてGunosyに投資している木村新司氏は、昨秋からGunosyの共同CEOに就任している。

これまでにも、Gunosyは、スタートアップとしては相当な額の赤字を出しながら広告出稿によってもユーザを獲得してきた(参考:ニュースキュレーションアプリ「Gunosy(グノシー)」決算 当期純損失4,522万円 - サイプロ)。

ユーザ数を増加させることも、収益化を図ることも、Webサービスである以上、何も問題はない。しかし、サービス改変の背景に、資本の論理に強制されたストーリーがあるのだとすれば、Gunosyはダメになってしまうかもしれないとも危惧している。

当初のサービス設計思想と今回のアップデートとが矛盾しているように思えるからだ。

当初の設計思想とアップデートの矛盾

Gunosyは何になりたいのか?福島氏は端的に次のように表現している。

Gunosyはあなたの興味にあわせたニュース,記事を推薦してくれるパーソナルマガジン。

その目的は「webを使って個を強くすること」。

そのために検索エンジンでは調べてこないような情報を「興味」という軸であつめて「興味の入り口」をつくること。
僕がGunosyを作った理由 - Make the Life Better

筆者は、この宣言を読んだとき、そう遠くない将来にサービス拡大が止まる可能性が高いのではないかと感じた。そして、先ほど引用したGIGAZINEによるインタビュー記事に目を通した時、その考えを強めたことを覚えている。

それはなぜか。

サービスが当初に想定したユーザ層が、数的に決して多く見積もることはできないと、筆者は算段したからだ。

まず、ユーザ数が伸び悩む1つ目の要因として、興味のある情報をTwitterやFacebookなどでユーザ自身が発信していることを当初からサービスの前提条件としている部分があったからだ。

そこには、ざっと思いつくだけで次のような3つの課題があった。

  1. 興味があったとしても公開できない興味もある
  2. 公開できる興味であっても、その情報を発信しているとは限らない
  3. TwitterやFacebookのユーザである必要がある

この条件をクリアできるユーザを第1グループとする。

次に、少し哲学的な話に立ち入るが、ユーザ数が伸び悩む2つ目の要因を挙げる。それは、Gunosyの開発陣は人間の性質や能力について楽観的に想定しすぎているのではないか、ということだ。

福島氏は当初の宣言で次のように述べている。

話は変わり,21世紀は個人の時代だと思います。個の力が強くなる時代。そして何となくそんな時代の到来に惹かれている自分がいました。多分僕の大学生活を突き動かしてた原動力もこの「強い個人への憧れ」だった気がします。
(中略)
そもそも「個が強くなる」ってどういうことだろうか。
僕はこれを「個が賢くなる」と置き換えられると思います。それも検索エンジンで得られる「知識」ではなく,知識を解釈した上で得られる「知恵」を得ることが重要だと感じています。現代で最後に自分を守ってくれるのは多分武力ではなく考える力だと思うからです。
(中略)
そのためには僕は「自身の興味」に従い,それに没頭することが大事だと思います。
僕がGunosyを作った理由 - Make the Life Better

とても素晴らしい考えだと思う。

このような、賢くなることや知恵を得ることに貪欲で、自分自身の興味にしたがってWebから情報を摂取していくような日本人を、Gunosyが想定した第2グループとする。

だが、はたして「強い個人」はどれだけ存在するのか?そして、強くなりたい個人はどれだけ存在するのだろうか?そう多くはないと筆者は思うのだ。たしかに、Gunosyを創りあげた彼らは、文句なしに優秀なはずだ。しかし、語弊を恐れずに言えば、世間は彼らほど優秀ではない。

そして、第1グループと第2グループが重なるところが、元々Gunosyが想定したユーザ層のはず。そうだとすれば、サービスとしてスケールするのには、そう大きすぎない限界が設定されているものだと、筆者は考えたのだった。

それなのに、今回のアップデートは、逆にユーザの間口を広げることを目的としているように見える。そこに小さくない矛盾を感じたのだ。

「いや、当初から一般ニュースアプリ化は既定路線だったのだ」という可能性も否定できない。先に挙げた「声なき多数派」にサービスを使ってもらうことを、サービス設計時から想定していたのかもしれない。

しかし、それならば、模倣したはずのSmartNewsを上回るクオリティのユーザ体験(UX)を提供しなければ、ユーザ数でSmartNews(300万ユーザ超)を追い抜くのは厳しいのではないか。そして、少なくとも現状ではSmartNewsのUXを下回っている。競合アプリを模倣するフォロワー戦略を採っていくというのならば、それはそれでアリだとは思うが、おそらくGunosyの望むところではないだろう。

もし、今回の路線転換の目的が収益化のためのユーザ数拡大であるならば、Gunosyは思想的に敗北したのだとすら思えてくる。

※追記(3/9 14:39)
「収益化のため」という理由を、「サービス売却や上場のため」と読み替えてもよい。

いずれにせよ、当初の設計思想とはズレが生じてきていると筆者はみている。

ニュースや記事のアグリゲーションおよびキュレーションを目的とする、いわゆる「ニュースアプリ」が想定できる国内ユーザ数は数千万人(1,000万人かもしれないし、6000万人かもしれない)。最初にGunosyが創りあげようとしたサービスでは、その数千万人をユーザとして取り込むことは厳しいと判断したのだろう。

深謀遠慮の末の決断であることは理解したい。ユーザを増やすため、特にマジョリティ層にリーチするためには、今回のアップデートが必要だった。そして、その結果として、Gunosyが理想としたところの「webを使って個を強くすること」が実現すると、彼らは考えているのかもしれない。

※追記(3/10 9:27)
木村氏は3月5日の記事で次のように語っている。詳細はリンク先から確認できる。

どんなビジネスでも、必ず成長するに従ってユーザーの質が変わります。ユーザーの変化をプロダクトでどう継続的に受け入れられるのかが重要です。殆どのプロダクトが変化を出来ずに死を迎えていきます。

そして、アーリーマジョリティから脱する頃までにプロダクト、マーケティングを大きく変更し投資をしていく必要があります。ちょっとずつ資金を調達し、規模が大きくなる為のポイントを証明し、調達し、証明し、調達し、そしてメガベンチャーになるという、一歩一歩計画的な駒の進め方が大切だとおもいます。この駒の進め方の順番が成功を大きく左右します。
日本で1兆円を超えるメガベンチャーを作ろう - entrepedia

Gunosyのこれから

実際のところ、今回の大幅アップデートは筆者を残念な気分にさせた。Twitterなどでユーザの反応を拾う限り、筆者と同じくアップデートに否定的な感想を抱いた人が多かったようだ。そして、TwitterでWebサービスについて積極的に発言するようなユーザは、Gunosyが当初想定していたユーザ層に属するはず。その彼らに、半ばそっぽを向かれてしまった感がある。

だが、この反発はGunosyにとって想定の範囲内のことだろう。嫌よ嫌よも好きのうち。ユーザはGunosyに期待しているからこそ、一言物申したくなってしまうのだ。

前述した2つの理由のうち、どちらの理由が正解に近いのかは分からないし、全く別の理由があるのかもしれない。いずれにせよ、従来のコアなファンの反発と離反を覚悟の上での路線転換であることは間違いない。その意味では、Gunosyは"変節"したと評されても致し方のない側面がある。

旧来からのユーザの失望感を裏切る形で、より良い次世代の「新聞」に成長していくのか。それとも、期待のサービスが資本の論理に呑み込まれていくのか。これからも、その行く末を見届けたいサービスであることに変わりはない。