昨日、突然発表されたGoogleの新プロジェクト「Tango」の無限大の可能性に胸をときめかせたのは筆者だけだろうか。
Google、スマホに人間レベルの空間認識能力を与えるプロジェクト「Tango」を発表
個人的にはかなりインパクトのあるニュースだったが、それほど大きな話題にはなっていないようだ(少なくとも日本国内では)。
Tangoが驚異的なプロジェクトになりうる理由を、Googleマップのストリートビューと比較しつつ、妄想を交えながら気楽に考えてみたい。
スマホで部屋を3Dモデル化した動画が公開
まず、TechCrunchが新たに公開した動画を見てみよう。
室内を撮影
雑然と物が置かれた部屋を、Tangoの試作スマホによって撮影していく。この試作機には、モーションセンサや奥行きを感知するDepthセンサ、カメラ、高性能プロセッサが搭載されている。
部屋内を移動しながら、ゆっくり撮影していく。
3Dモデル化
すると、次の画像のように室内が3Dモデル化される。秒間25万回もの3D測定をおこない、周囲の空間をリアルタイムにマッピングするということだ。
さまざまな角度、距離から室内を見ることができる。
Tangoの実力は?
まだ今後何年も続いていくであろう計画の初期段階にもかかわらず、その実力には目を見張るものがある。現実の部屋の画像と、3Dモデル化された部屋の画像を縦に並べて比べてみよう。
まだモデリングが粗いかもしれないが、この再現度は素晴らしい。そこには、Tangoの実力の一端が垣間見られる。
Googleマップのストリートビューと比較
この動画を見ると、Tangoは、既存のGoogleサービスの中ではGoogleマップの設計思想に近いものであることが分かるだろう。現実世界の空間をデータ化する点で共通しているからだ。
中でも、地図や航空写真をWebサービスとして提供してきた従来のGoogleマップよりも、ストリートビューや日本国内の大都市部で利用可能になったばかりの3D表示と共通点が多い。
比較のために簡単に特徴を見てみよう。
ストリートビュー
ストリートビューについては説明不要だろう。Googleの共同創業者であるLarry Pageがストリートビューカー(と名付けられる前のクルマ)でサンフランシスコ市内を撮影に出かけた2007年当時、このサービスがこれほど瞬く間に世界に広がると予想できた人は多くないのではないだろうか。
Googleストリートビュー・チームにロング・インタビュー―ラリー・ペイジの車の屋根のカメラからグランドキャニオンの谷底まで(TechCrunch)
まるで、そこにいるかのような体験を可能としたストリートビューがユーザに与える没入感は、改めて考えると凄まじいレベルに達している。
もっとも、車載カメラでクルマの周囲を撮影し、画像を合成して作られるストリートビューは、3D画像というよりはパノラマ画像をつなぎ合わせたもの。その地点でグルグルと周囲を見渡すように操作できるものの、できることはそこまでだ。
撮影された周囲の建物などに近づくことは基本的にできないし、1cmずつ視点を進めるようなこともできない。建物内にストリートビューを拡張する「おみせフォト」でも、それらは同じことだ。
都市の3D表示
Google Earthと同様の3D表示が可能となったGoogleマップ。
大都市部に限られるものの、3Dという点でTangoと共通している。だが、ストリートビューのように、街中を散策するようなことはできない。都市の模型を眺めているような感覚だ。
Tangoが真に驚異である理由
Tangoと比較するための一例としてGoogleマップを挙げたワケは、もうお分かりだろうか?
Googleマップは、たしかに素晴らしいサービスで、既に日常の一部になっているとさえ言えるくらいに慣れ親しまれている。
しかし、Googleマップでは、本当にそこにいるかのような体験を得ることが十分にはできていない。つまり、360度どちらの方向にでも自由自在に動き回れたり、ビルの中に入ることができたり、地下鉄のホームまで歩いて降りて行ったり──そういうことは今のところ不可能だ。
もし、TangoとGoogleマップが統合されたら……
だが、もしも、TangoとGoogleマップが密接に関連するようになったら、と夢想してみよう。
Tangoを発展させた撮影機材が積まれたストリートビューカーが、全世界を駆け巡る。なにもGoogle自身がする必要はないかもしれない。
園内で砂場を撮影する幼稚園児、自分の街中を3Dモデル化する小中学生、店内を詳細に公開したいカフェのオーナー、旅の思い出を3D化して保存したい旅行者など、オプトイン方式でプライバシーに配慮した形でならデータを吸い上げることだって無理ではないはずだ(多分)。
技術的な課題は置いておくと、同じ地点のデータを含む3Dモデルを合成して、邪魔な物体(主に人間やクルマ)を消し去った上で、都市や自然をトレースしていくことだって、きっと可能だろう。
その先には、真の「Googleマップ」が待っているはずだ。PCやスマートフォンの中に、世界が丸ごと再現されてしまう未来がやってくるかもしれない。
そして、そのデータを活用した"何か"が生まれてくるだろう。
Tangoの本質的な素晴らしさは、精密な3Dモデリングが大衆の手に委ねられるということ
最後に、筆者が畏れとともに本当に素晴らしいと感じていることを書いておきたい。
Tangoは、スマートフォンを基盤としたプロジェクトだ。それはすなわち、一般個人が安価に手軽に3Dモデルを製作できるようになることを意味する。
つまり、3Dモデルをつくる技術が大衆化されていくことで、現時点では想像できないプロダクトやサービスが誕生し、生活習慣や学習方法、思考形態を変え、そして人間の生き方にも影響を及ぼす可能性があるということだ。
歴史上、技術や知識、コミュニケーション手段が大衆化されていくとき、その大衆化が世の中を大きく変える原動力となってきた。あらゆる面でのコストが低下し、大衆が活用できるようになったおかげで、人間社会は大きく進歩してきたと言って良いだろう。
過去、印刷技術や内燃機関、農業機械や農薬、医薬品、自動車、電話、コンピュータ、インターネットが、市井の人々の手に渡った時に何が起きたか。
そして、これからスマートフォンやタブレットがさらに普及し、3Dプリンタがそこら中にある時代がやってくる(そこに、Google Glassのようなウェアラブルデバイスも割って入ってくるかもしれない)。Tangoのような技術は、その時代の中で大きな役割を果たすに違いない。それは驚異的なものになるだろう。その点は、非常に素晴らしいし、これからの10年、20年が楽しみで仕方がない。
だが、一方で、人並みの"畏れ"も感じている。それは、Tangoによって空間データを手にすることになる可能性が最も高いのがGoogleであるという事実に対してだ。検索データは言うに及ばず、モバイルの普及による大量の位置情報の取得や多数のWebサービスに基づくデータ収集によって、Googleは神に近づいているとさえ感じる。
何がどうなるのか、ハッキリしたことは分からない。僕らが死ぬ頃、ユートピアが到来しているのか、ディストピアが手ぐすね引いて待っているのか、それとも大して何も変わらない日常がそこにあるのか。
皆さんは、どう思うだろうか?